半世紀経っても廃れない魅力――「Helvetica forever」:経営のヒントになる1冊
さまざまな企業ロゴやポスターに用いられるなど、多くの日本人に愛されてやまない書体、ヘルベチカ。誕生して50年経った今も失うことのない魅力の源は何か。
世界で最も有名な書体、ヘルベチカ。日本語は組めないにもかかわらず、日本でも定番書体として企業ロゴやポスターなどに使われ、日常に広く浸透している。誕生から50年経った現在でも、グッズやDVDが売り出され、その魅力に注目が集まっている。
『Helvetica forever ヘルベチカ・フォーエバー タイプフェイスをこえて』 編集:ラース・ミューラー、ヴィクトール・マルシー、監修:小泉均、定価:5040円(税込)、体裁:160ページ、発行:2009年2月、ビー・エヌ・エヌ新社
本書は、ヘルベチカを知るための第一級の資料集である。スイスのマックス・ミーディンガーとエドアード・ホフマンによって作られたヘルベチカの誕生秘話、制作上の試行錯誤の様子をリアルに物語る直筆の日誌ファイル、ヘルベチカとほかの書体との比較、世界中から集められた有名事例の紹介という5つの内容で構成されている。本邦初公開となる貴重な資料も多く含まれ、ヘルベチカが成功した背景を深く知ることができる1冊である。
中でも注目すべきは、エドアード・ホフマンの日誌ファイル。何度も書体の線の太さや曲がり具合といった細部を変更し、紙1枚ずつの幅で文字間隔の調整を行っていることが分かるだろう。制作する上でかかわったさまざまな人々とのやりとりも書き記されている。この詳細な記録は、1つの書体を開発するには、研ぎすまされた美的感覚と根気が必要であるということを示している。
本書は、2008年にスイスの出版社Lars Muller Publishersから出版されたドイツ語版の翻訳であり、編集者は同社の発行人・デザイナーであるラース・ミューラーと、デュッセルドルフ専門大学デザイン学部教授のヴィクトール・マルシー。そして、タイポグラファーの小泉均が、日本語版の監修を担当。
日本語版のオリジナルコンテンツとして、1960年ごろにヘルベチカが日本に登場した当時の日本の風景や、ヘルベチカが使用されている事例を紹介している。モダンな文化と科学技術の発達で豊かになりはじめた日本人の生活とともにあったヘルベチカ。今改めて眺めてみても、まったく古めかしい感じはない。
「ヘルベチカは、わたしたちがこの書体の特徴、個性をすべて備えたタイプフェイスを新たに誕生させる日まで、時代遅れになることはないでしょう。」と、本文でも述べられているように、普段何気なく目にし、使用しているヘルベチカが、実は、職人たちのたぐいまれな感性と技術によって磨かれてきた、揺るぎない美しさを備えた書体であることが分かる。
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