【第4回】世界中が探る適正な政府の大きさとは?:石黒不二代のニュースの本質(2/2 ページ)
米国民の怒りを買ったAIG幹部への高額ボーナス支給問題。政府はボーナスへの課税強化を推し進めているが、今度は金融市場に波紋を広げている。国家が民間企業の経営にどこまで介入すべきか考える必要がある。
元々は同じ国民の税金
では、果たしてボーナスの支払いは非で、これら債権を所有していた金融機関への支払いは是でしょうか。元々どちらも税金である資金を受け取っています。AIGとGoldman Sachsは、今回の経済破たんの原因である投資銀行が生み出した、行き過ぎた信用経済という同じスキームの企業でした。市場は過度に膨張するものの、中ではゼロサムゲームが繰り広げられ、結果、AIGや米Lehman Brothersが負けて、Goldman Sachsや米Morgan Stanleyが勝ったにすぎません。
同じ国民の税金から支払われるサブプライムやCDSの債権については、誰も異を唱えませんが、AIG幹部や社員が受け取るボーナスに対しては大いなる批判の渦です。債権を清算する額は今回のボーナスの1000倍規模なのに。
契約により保証されていたボーナスが非であれば、既に支払われたボーナスはどうでしょう。経済危機を生み出した投資銀行のCEO(最高経営責任者)の報酬やボーナスは、どうでしょう。危機以前の報酬やボーナスは日本円にして数十億円が当たり前、社員の報酬やボーナスでさえ、億単位は珍しくありませんでした。ブッシュ政権で財務長官を務めたポールソン氏、オバマ政権のガイトナー氏もその恩恵を被った人です。
感情論に流されず政府の大きさを見直す
今回のボーナス支払いに対する法規制が端的な事象となっているのですが、わたしの議論は、未曾有の金融危機の下、政府が民間企業の経営にどこまで介入すべきかということです。当然、救済を行った企業への介入は特例であるとしても、金融危機を2度と引き起こさないためには、金融緩和の見直し、金融商品の規制、自己資本比率の再設定、報酬制度や雇用契約の見直し、ヘッジファンドやノンバンクなどの規制外だったフィナンシャル機関への規制など大幅な対策が必要とされます。
しかし、米国は例にないほど小さな政府を実行している国です。共和党と民主党の政権で多少の違いはあるとはいえ、資本主義への明らかな傾倒と自信は、他国の比ではありません。とはいえ、米国が信じた資本主義は既に実体経済の下で論じた「神の見えざる手」など働かなくなっている、統制不可能な新しい資本主義に変貌しています。故に、それを阻止するべく可決された今回のボーナス課税法案は小さな政府と対極にあるといえるでしょう。税を罰として使うことは違憲の恐れがあり、オバマ大統領も法案を検討するという慎重な姿勢を示すようになりました。
この金融危機の再来を防ぐための対策は必要です。資本主義は既に変貌著しいわけですから、法改正も必要です。しかし、あまりに保護主義に陥ることは世界経済の正常な発展を阻害することになります。米国政府のみならず、各国が今こそ、感情論に流されることなく、適正な政府の大きさを考え、新しい指針を示すべきです。新しい資本主義の枠組みの中で、政府の役割、民間の役割を定め、各国が協調して対策を議論すべきであると考えるのです。
プロフィール
石黒不二代(いしぐろ ふじよ)
ネットイヤーグループ株式会社代表取締役社長 兼 CEO
ブラザー工業、外資系企業を経て、スタンフォード大学にてMBA取得。シリコンバレーにてハイテク系コンサルティング会社を設立、日米間の技術移転などに従事。2000年よりネットイヤーグループ代表取締役として、大企業を中心に、事業の本質的な課題を解決するためWebを中核に据えたマーケティングを支援し独自のブランドを確立。日経情報ストラテジー連載コラム「石黒不二代のCIOは眠れない」など著書や寄稿多数。経済産業省 IT経営戦略会議委員に就任。
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