「鳥のまねをしても空を飛べない」――未来戦略家が語る
なぜ企業は失敗するのか。この永遠の課題に対して、米Autodeskの未来戦略家、ウェイン・ホジンズ氏は端的な回答を示した。それは、変動の激しい現代社会を生き抜くための“処世術”でもあった。
ここ数カ月のうちに、今まで予想しなかった事態が次々と起きており、世界を震撼させている。2008年9月15日には、米国の証券第4位のLehman Brothersが経営破たんした。負債総額は6130億ドル(約63兆8000億円)で、これまでで最大だった2002年の米Worldcomの410億ドルを抜き、史上最大の倒産となった。米投資銀行大手のMerrill Lynchも同日、米銀行最大手のBank of Americaに買収された。わずか1日で米証券大手2社が消滅する事態となった。
いわゆる「リーマン・ショック」に端を発し、瞬く間に経済危機が世界中に広がった。国際通貨基金(IMF)へ1兆円を超える緊急融資を要請したウクライナや、主要3銀行すべてが国営化されたアイスランドなど“国の破たん”までもが現実味をおびており、衝撃の大きさを物語る事件は枚挙にいとまがない。こうした事態に陥るのを推測し、未然に防ぐことはできないのか……。
「未来戦略家」――こう呼ばれる職業があるのをご存じだろうか。2Dおよび3Dソフトウェアの大手、米Autodeskのウェイン・ホジンズ氏もその一人だ。未来戦略家(英語表記:Strategic Futurist)とは聞き慣れない言葉である。ホジンズ氏は「預言者ではなく、世界をマクロ的かつ長期的な視点でふかんして、浮かび上がるパターンやトレンドを分析する者」だと説明する。ここから導き出された結果から将来起こり得る事象を推測し、それに対応できるよう人々に伝える役割を持つ。
「例えばこの写真(図1)を見てほしい。単なる荒野のようだが、空から眺めるとナスカの地上絵だと分かる(図2)。このように世界をさまざまな角度から見るのがわたしの仕事である」(ホジンズ氏)
ホジンズ氏によると、未来戦略家は世界に20人ほどいて、一人一人役割が違うという。
物事の大局を見る
ホジンズ氏の提唱するビジョンが「スノーフレーク(雪片)効果」だ。スノーフレークが一つ一つ異なるのと同様に、人、仕事、技術などすべてのものも一つ一つがユニークである。雪片を集めると、新たに1つのユニークな固まり(組織)ができる。こうした考えがホジンズ氏の活動の根底にある。
「わたしたち一人一人は、二つとして同じではない、スノーフレークのようなものだ。あらゆる瞬間、組み合わせ、状況においても二つとして同じではない」(ホジンズ氏)
現状の経済危機を解決する上で、スノーフレーク効果は有効だという。問題を分析するときに、個々の事柄に着目してしまいがちだが、これでは問題の一部しか見ていないことになる。そうではなく、「物事を一般化し大きな単位にした後で、小さな単位に落とし込んでいくという二極化した考えが必要だ」とホジンズ氏は述べる。「今回の経済危機であれば、まずはグローバル全体の問題としてとらえ、そこから日本の問題、自動車産業の問題という形で具体化していけばいい」(ホジンズ氏)ということだ。
鳥のまねをするな
「その際に重要なのは、本質は何かを見極めることである」とホジンズ氏は強調する。いくら問題をブレークダウンして考えても、本質を理解していなければ何も答えは導き出されない。
象徴する例として、ホジンズ氏は人間の空中飛行に対する取り組みを挙げた。人類が初めて有人動力飛行に成功したのは1903年のライト兄弟によるものだが、ここに至るまで多くの人々が空を飛ぶことを夢見ては砕けた。失敗の多くは、鳥をまねして飛ぼうとしたことにあるとホジンズ氏は指摘する。
「空を飛ぶには羽をばたつかせるのではなく、重力、すなわち身体を浮かせることを第一に考えなくてはならない。多くの人間がこの本質を見誤った。模倣することではなく、浮くという行為は何かを考えるべきだった」(ホジンズ氏)
これは現代の社会にも当てはまる。本質が何であるか分からないが故に失敗を繰り返す企業や国は多い。
「ほかの企業の手法やベストプラクティスをまねる前に、自社にとっての課題の本質を見極めることが重要である。それによって、今までとは違う新しいアイデアが生まれてくるはずだ」(ホジンズ氏)
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