低迷する日本企業、脱出の鍵は「構想力」と「技術力」:Gartner Symposium ITxpo 2008レポート
日経平均株価がついにバブル崩壊後の最安値(7607円)を下回るなど、日本経済の悪化は歯止めがきかない状況になっている。日本がこの閉塞感を打破する秘策はあるのか。
IT調査会社のガートナー ジャパンは10月27日、CIO(最高情報責任者)をはじめ企業のIT担当者に向けたセミナーイベント「Gartner Symposium ITxpo 2008」を開催した(イベントは29日まで)。基調講演に登壇したガートナー リサーチのバイス プレジデント兼最上級アナリストである亦賀忠明氏は、経済危機や資源不足、気候変動など世界が大きな課題に直面する今こそ変革を起こすべきであり、中でも日本企業は構想力(アイデア)と技術力によって低迷する現状を抜け出すことが重要だと強調した。
日本が抱える問題は深刻だ。株価の大幅下落による経済環境の悪化、少子高齢化による労働人口の減少、政局の不安定など枚挙にいとまがない。GDP(国内総生産)の成長率はここ数年横ばい傾向にあり、中国やインドといった新興国に抜かれるのは時間の問題という。IMF(国際通貨基金)の調査によると、1人当たりのGDPで日本は2013年に香港、イタリア、スペイン、ギリシャを下回ると予測されている。
日本に未来はないのか。亦賀氏は、これまでにないアイデアと卓越した技術が鍵を握るという。「(2020年に完成予定の)高さ1000メートルに達するドバイの高層ビルがいい例だ。1キロメートルのビルを建てるという構想も見事だが、これは技術力(IT)なくして成し得ない」(亦賀氏)。この両輪が今後の日本企業に重要だと力を込める。
では日本企業は何をすべきか。ITについては、現状の発想や仕組みを根本的に変える必要があるという。企業におけるITは、複雑性、コストの増大、変化に対応するスピードの遅さなどが問題になっている。亦賀氏は「俊敏なSpeed(スピード)、グローバルなScale(規模)、クラウドコンピューティングといった新たなService(サービス)、企業のSustainability(持続可能性)の“4S”をキーワードに、今後はITがビジネスをけん引するという意識を持たなくてはならない」と述べる。
具体的には、クラウドコンピューティングが大きな変化をもたらすとしている。これまでのITはいわゆる「発電機モデル」であり、業務に対して1つずつ存在するものだった。ベンダーやシステムインテグレーターなど人の手を介すため、導入まで数ケ月から数年かかるほか、一度構築すればそれで終わりだった。「これからのITは大量のユーザーに対して1つだけ存在するという“発電所モデル”が主流になる。必要な機能が必要なときに自動的に提供されるため、わずか数分でユーザーはITを活用できるようになる」と亦賀氏は説明する。
例えば、日本郵政(JP)は民営化に際して4Sを体現した。新システムにセールスフォース・ドットコムのオンデマンドCRM(顧客情報管理)アプリケーション「Salesforce」などを採用し、システム開発の期間を大幅に短縮した。同システムは約2万4000局、約4000人で利用されているという。
「もはや業務のためにITを導入するという考え方は古い。今やITはビジネス競争の武器であり、(勝ち組と呼ばれる)グローバル企業は当然のように取り組んでいる。急激な変化に対応するにはITを前提にビジネスを設計すべきだ」(亦賀氏)
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