「すべては現場から」――ドラッカーとトヨタに相通じるもの:ITmedia エグゼクティブセミナーリポート
「マネジメントの父」と称されたドラッカーと世界のトップを走るトヨタ。両者の共通項は多い。ところがこのほど、トヨタ式経営に異変が起きているという。
アイティメディアは3月19日、経営層向けのセミナー「第8回 ITmedia エグゼクティブセミナー」を開催した。「ドラッカーとトヨタ式経営から学ぶ社会生態学マネジメント」と題した基調講演に登壇した経営コンサルタントの今岡善次郎氏は、ピーター・ドラッカーが提唱する原理を基にトヨタ自動車の経営のあり方を述べた。
ドラッカーについては今さら説明するまでもないだろう。経営学者、社会生態学者として全世界の経営者やビジネスマンに多大な影響を与えてきた。「マネジメントの父」と呼ばれるドラッカーは数々の著作を世に残し、日本での売り上げはダイヤモンド社発刊だけで400万部を超えるという。
ドラッカーとトヨタの共通点の1つが「生産性」である。ドラッカーは、仕事をする人全員がゲリラ戦の兵士のようにマネジメントし、1時間当りの生産性を最大にするのではなく、500時間当たりの生産性を最大化することが必要だと説いた。トヨタ式経営も同様に、部分最適ではなく全体最適を重視する。こうした発想の背景には、どんな製品やサービスでも最終顧客まで、買い手(需要者)と売り手(供給者)の関係があり、経済連鎖でつながっているという考えがある。「連鎖の中でしか企業は存在できない。一部分だけが独立することはない」と今岡氏は説明する。
そのほかにも、ドラッカーの原理にある「顧客は誰かと問え」とトヨタの経営理念に見られる「顧客第一主義」、同じく「成功体験をレシピ化せよ」と「横展開」、「流れをつくれ」と「ジャストインタイム」など両者の共通点は多い。
失われた現場主義
ドラッカーの原理を自然と実践していたトヨタだが、このたびの世界的な経済危機で、2009年度3月期決算は戦後初の赤字に転落した。原因について今岡氏は「豊田佐吉の豊田綱領にみる質実剛健、産業報国といった社会的使命の視点が弱まったのではないか」と分析する。加えて、新たな市場機会を求め拡大路線を走る中で、時価総額を意識し、現場重視のトヨタらしさを失ってしまったという。
「知識とノウハウは現場から生まれると語ったドラッカーに対し、(ドラッカー以前の生産性革命の担い手である)フレデリック・テイラーは現場の声を聞かず指示するだけだった。マルクスもレーニンも大衆を煽るだけで問い掛けなかった。今のトヨタにも通じるところがある」(今岡氏)
果たして、トヨタの現場主義復活はあるのか。今岡氏は、6月に社長就任する豊田章男氏に可能性を託す。
「創業家の社長誕生によって豊田綱領がスタートすれば、再び現場を重視し成長路線に乗ることができるはずだ」(今岡氏)
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