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「矛盾こそがトヨタの強さ」――一橋大・大薗准教授ITmedia エグゼクティブセミナーリポート

現在ほど環境問題がクローズアップされていなかった1990年代末に、世界に先駆けてハイブリッドカー「プリウス」を市販するなど、常に企業変革を推進するトヨタ自動車。その強さの源泉は「矛盾する行動」にあるという。

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 グローバルで勝つための経営とIT戦略をテーマにした企業経営者向けのセミナー「第4回 ITmedia エグゼクティブフォーラム」(協賛:日本IBM)が9月11日に開催された。基調講演では一橋大学大学院 国際企業戦略研究科の大薗恵美准教授がトヨタ自動車の経営モデルを例に、グローバル競争に巻き込まれ日夜苦闘する日本企業に対してヒントを示した。

一橋大学大学院 国際企業戦略研究科の大薗恵美氏
一橋大学大学院 国際企業戦略研究科の大薗恵美氏

 「トヨタの経営には矛盾する行動がある」。大薗氏はこう切り出す。作り過ぎや不良品など“7つのムダ”の排除を重要な取り組みとする「トヨタ生産方式(TPS)」に代表されるように、トヨタは徹底した節約経営を遂行する。これは社内に向けても同様で、2008年5月に開かれた決算発表会見の場で渡辺捷昭社長は「社内会議の資料はカラーコピーを多用しており実に無駄だ。記者発表資料も派手過ぎる」とコメントしたという。一方で、大胆な投資や無駄ともとれるようなコストを惜しみなく掛けたりする。「トヨタのある幹部を取材した際、メモを取るだけのために45人も集まった」と大薗氏は舌を巻く。

 そのほか、いわゆる官僚的な組織である反面、自由に上司へ反論できる風土だったり、部門の壁を越えて社員が集まり自主的なカイゼン活動を進めたりもする。この矛盾を内包しながら継続的な自己革新を図っていることがトヨタの強さだと大薗氏は強調する。

 こうした矛盾をどう対処しているのだろうか。大薗氏は「トヨタには拡張と同時につなぎ止める6つの相反する力が存在する」と述べる。拡張力に当たるのは「実現不可能な目標」「現地顧客対応」「実験主義」で、つなぎ止める力は「創業者の哲学」「双方向の人間系神経システム」「アップ・アンド・インの人事管理」だ。

 例えば「走れば走るほど空気がきれいになる車」といった実現不可能な目標をどう具現化するか考える習慣がすべてのトヨタ社員に浸透しており、開発プロジェクトなどの失敗を恐れずに業務を遂行し、たとえ失敗しても実験を繰り返すべきだという文化が根付いている。これがトヨタの原動力である。

 かたや求心力となるのは、「人間尊重」や「現地現物」をはじめとする哲学や人事管理である。トヨタが目指すのは、自律的に考えることができ、組織を動かす行動を起こすことができる人材である。そのためには社員教育への投資は惜しまず、人材確保や長期的な育成のために安定雇用も提供する。上司の役割も明確だ。質問しやすい環境を作ったり、部下が上位レベルの仕事ができるよう育てたりと、社員を尊重した管理体制を用意している。

 「こうした矛盾する力が遠心力となり、トヨタのビジネスを大きく成長させた。相反する目的を追求する姿勢がトヨタの経営モデルといえる」(大薗氏)

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