【第6回】チーム型マネジメントシステムの構築へ:日本流「チーム型マネジメント」
日本企業がグローバル市場で勝ち抜くためには、組織において「チーム型マネジメント」を確立しなければならない。いかに構築するべきだろうか。
前回は米HPと米Appleを例に組織文化の要素と構造について述べた。今回はグローバル展開する上でのマネジメントシステムの要素と位置付けを検討する。
グローバルマネジメントにおけるマネジメントシステムとは、戦略、人、組織の中心に位置する自社ならではの仕事の進め方を指す。部門や現地海外法人の通常業務における意思決定やコミュニケーションの方法など、組織メンバーの行動を規範するシステムである。
マネジメントシステムとは、グローバルマネジメントを形づくるプロセスにおいて2つの役割を持つ。1つ目は一個人がマネジメントシステムを構築し実践することで組織文化を動かすドライバーの役割である。2つ目は組織文化に基づいたあるべきマネジメントシステムを具現化することによる一個人のリーダーシップの役割である。どちらの役割も一貫性あるグローバルマネジメント構築に補完的な役割を果たす。これにより、一貫性ある部署やチームの文化が構築され、強固なグローバルマネジメントが実践できる。
個人型マネジメントとチーム型マネジメント
意思決定の方法によって、マネジメントシステムは「個人型マネジメント」と「チーム型マネジメント」に分かれる。個人型マネジメントとは、トップダウンで意思決定を行い、命令と統制を中心にしたマネジメントである。個人ごとに明快な責任範囲と権限、職務内容が規定される。組織を率いるマネジャーは意思決定者であり、スタッフの目標や業務手順を規定し経営情報を独占する。この組織形態はいまだ多くの欧米企業に見られる。
チーム型マネジメントシステムは主に日本企業で見られるもので、集団やチーム主体のボトムアップによる合意型意思決定がなされる。マネジャーは意思決定よりもファシリテーションとして機能し、実際の意思決定や提案はスタッフに委ねられる。個人の職務や権限、責任範囲はチームで共有化される。コミュニケーションは円滑な参加型意思決定を支援する会議が主体である。
多くの日本企業ではチームによる合意形成を行い、組織メンバーから上層部に提案書を上げ承認を得る。国内事業であれば文化的な背景からボトムアップによる意思決定で推し進めることが可能だ。しかしグローバル経営では、チーム型マネジメントシステムの制度化が必要である。多様性ある異文化環境ではこの仕組みを明快にしない限り現地社員には理解されない。
同じ企業体でも部門ごとに異なるマネジメントシステムが存在する。例えば、ある消費財メーカーの製造現場では、チーム型マネジメントによる品質管理が基盤となるが、ブランドを考えるマーケティング部門では個人型マネジメントに基づいた創造性を重視している。チーム型マネジメントの導入範囲は部門や地域、役職に応じて調整する必要がある。
日本流「チーム型マネジメント」 バックナンバー一覧
著者プロフィール
岩下仁(いわした ひとし)
バリューアソシエイツインク Value Associates Inc代表。戦略と人のグローバル化を支援する経営コンサルティングファーム。代表は、スペインIE Business School MBA取得、トリリンガルなビジネスコンサルタント。過去に大手コンサルティング会社勤務し戦略・業務案件に従事。専門領域は、海外マネジメント全般(異文化・組織コミュニケーション、組織改革、人材育成)とマーケティング全般(グローバル事業・マーケティング戦略立案、事業監査、企業価値評価、市場競合調査分析)。
現在ITmedia オルタナティブブログで“グローバルインサイト”を執筆中。
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