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そもそもフランス人はマスクをする習慣がない――新型インフルへの危機意識フランスに行ってみますか?(2/2 ページ)

新型インフルエンザが大流行してから2カ月が経った。連日のように大騒ぎしていた過熱報道もだいぶ沈静化した。フランスから今回の一件を考察したい。

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集団ヒステリーを考える

 日本の友人とやり取りしていると「日本は騒ぎ過ぎだよね?」とか「どこもかしこも“マスク祭り”で嫌になる」という話を聞かされる。そういえば、どこぞの女優の夫がブログに「日本人の病は集団ヒステリー」と書いたということが報道されていた。感想を求められても「別に」としか思えない、いちいち報道する価値のない話だけれども……。

 では、フランス人やほかのヨーロッパ人が「集団ヒステリー」を起こしていないと言えるのかというと、答えはイエスでありノーであろう。例えば、ある学校に通う子どもがインフルエンザに感染した疑いがあると報道されるや、メディアが学校に押し掛けて校長先生までがカメラに囲まれるということがあった。メキシコからの帰国者が空港で出迎えてきた家族や友人と涙を流しながら抱き合う様子も報道されていた。こういう内容を含めたインフルエンザ関連のニュースが連日メディアをジャックしていたのである。新型ウイルスという実態のはっきりしないものであったし、弱毒性とはいえ重症患者が出る可能性も指摘されているし、誰しも感染して苦しみたいとは思わないからだろう。

 しかし一般市民を見れば、上述の日本の友人と同様、フランスにもあきれ返っている人は多い。フランス人はインフル対策が甘いという声もあるが、フランス人はそもそも花粉症の季節であってもマスクをする習慣がない。メディアによって切り取られた部分だけで判断し、安直な日本人論をぶち上げるのはまったく知的とは言えないだろう。

 危機感があるから騒ぐのだ。この小さな世界の中には危機が起きようとも騒ぐどころか情報をひた隠そうとする厄介な国もある。メディアの大騒ぎと一緒に騒ぐ市民、そして冷めた市民という構図を見ていると民主国家に生きていることを実感するのだが、どうだろうか。


プロフィール

中嶋洋平(なかしま ようへい)

フランス国立社会科学高等研究院(EHESS) 政治研究系博士課程在学。

1980年大阪府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程を首席修了。同研究科博士課程単位取得退学。現在、フランス国立社会科学高等研究院政治研究系博士課程に所属。専門は欧州統合思想の歴史的展開(特に19世紀)。主な論文に「来るべき『欧州連邦』―その歴史性と現在―」(Keio SFC Journal Vol.7 No.1)など。


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