15坪の個人店が示す未来――「新宿駅最後の小さなお店ベルク」:経営のヒントになる1冊
新宿駅前の激戦区で奮闘する飲食店「ベルク」。店長の井野さんはこれからの時代は中小企業にチャンスがあると述べている。
既に多くの書評家やブロガーが取り上げているのでご存じの方も多いと思う。本書には、この未曾有の不況の中で踏ん張る多くの経営者に大切な哲学が生き生きと描かれている。
著者が経営するお店「BERG(ベルク)」は、新宿のど真ん中にある。駅東口改札を出てすぐ、立ち食いそば屋などがある一角だ。都心でも特に移り変わりの激しいこの場所で、先代から数えて30年、道行くサラリーマンからOL、学生、ホームレスまでを相手に飲食業を営んできた。現在は1日平均1500人が来店し、60万円を売り上げるという。
本書には、そんな飲食店を経営する著者自らが試行錯誤し獲得してきた「地に足ついた」言葉が満ち溢れている。決して構成や文章がこなれているとは言えないが、プレゼンが上手いだけの人間が書いた本にはない実直な文章で、不思議と著者の思いが頭に入ってくるのだ。
創造することよりも維持することの方が道は険しく、「何かしら荘厳の気が漂っている」と語った人がいます。エリック・ホッファーです。「四六時中物事を良好な状態に保つために費やされるエネルギーは、真の活力である」と。期待せず、だから幻滅もせず、人生を直視しえたといわれるこのアメリカの思索者の言葉に、私は時折、勇気づけられるのです。
金に糸目はつけない。時間をいくらかけてもいい。たった一日の究極の店を作るとなれば、そりゃ気持ちは盛り上がるでしょう。しかし、そんな話はテレビ番組の企画のなかにしかありません。現実の店はあらゆる点でその対極にあります。限られたお金、限られた時間で食材や人を用意しながら、日々営業を続けるのです。
悩み、苦しみ、考える。著者は、自分の店をライフワーク、つまり人生(ライフ)+仕事(ワーク)ととらえている。遊びも仕事も生活の中に複雑に溶け込むため、すべてが生かされるのだという。
著者は最後に「個人店の時代がやってくる」と強調している。これからは自由自在に小回りを効かせ、技に磨きをかけられる中小企業に可能性があるという。大手チェーン店の見本市と化す新宿駅で戦ってきた著者の言葉は重い。ベルクでビール片手に本書を読んでみるのも一興だろう。
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