「新聞社として新しい情報流通の形を」――朝日新聞社・洲巻プロデューサー(2/2 ページ)
大手新聞社らしからぬユニークなサービスを次々と提供している朝日新聞社。モバイル新サービスの担当プロデューサーに今後の方向性などを聞いた。
新聞との連携は前提としない
――既に朝日新聞社には携帯サービスがありますし、情報を提供するメディアという観点では、速報ニュースサイト「asahi.com」や新聞もあります。それらとの連携のイメージはありますか。
洲巻 今回のサービスはクロスメディアを前提としていません。これまで新聞社におけるデジタルメディアの考え方は、新聞というプラットフォームに、ネットと携帯を組み合わせて、単価の高い新聞に付加価値を与えるというものでした。情報は自分たちで作り、自分たちで紙に印刷して、自分たちで読者に配達するというビジネスモデルでした。
今回考えたのは、情報をブロードバンド型で一方的に提供するのではなく、情報を持っている人とそれを必要としている人とをマッチングするような仕組みです。新聞社を情報流通業としてとらえると、そうした新しい形での情報の届け方も必要だし、どういう形にせよ、結果的に自分たちの元に情報がくるので、それをうまく生かして既存のメディアに展開していくことも今後は考えられます。ただし、あくまで新聞やasahi.comとの連携を前提として、ユーザーから情報を集めるわけではないです。
――1年前から読者とのインタラクティブなコミュニケーションの場が重要だという話が朝日新聞社内で出ていたそうですね。
洲巻 紙やネット、携帯などアウトプットする媒体はさまざまですが、朝日新聞社では約2500人の記者を抱え、情報を自分たちでつくるというスタイルを昔から変えてきませんでした。ところが、情報爆発の時代になり、あらゆる情報ニーズに対応できなくなってきて、何とかして手数を増やす必要がありました。そのときに、必ずしも自分たちですべての情報をこしらえて届けるのではなく、ソーシャルな力を借りたメディアというものも考えられるのではないかという議論になりました。
その過程において、さまざまな意見が出ました。例えば、新聞社でよくあるパターンなのですが、全国に取材拠点を持ってることを強みにして、各地域を基点としたSNSやCGMといったソーシャルメディアをつくれないかという声もありました。しかし、仮に新聞社でその枠組みを設けたとしても、それに対して果たしてユーザーが参加し、満足を得るような構造が作れるのか疑問に思いました。最初はある程度テーマを絞った形のサービスを想定していたのですが、なかなか成立させるのは難しいと考えるようになりました。
そこで、地域や政治といった枠組みにとらわれるのではなく、(映画でも旅行でも)ユーザー自身の参考になる幅広い情報が集まるサイトを目指しました。既存の新聞やニュースサイトにしても、ニュースを読む動機の多くは自分の知識を増やしたり判断の指針としたりと、日常の参考になる情報を入手するためです。ただし、参考ピープルは情報のつくられ方や供給のされ方が今までの新聞のモデルとは違うわけです。
個人の生活に有益なサービスが基準に
――モバイルサービスの今後について、どのようにお考えでしょうか。
洲巻 モバイルの良いところはユーザー個人をある程度特定できる点です。テレビは誰が見ているかまったく分からないし、新聞も世帯や年齢層などの大まかな把握でしかない。ネットにおいてはユニークブラウザやページビューなどの指標がありますが、個人が特定できているわけではありません。モバイルだと、ユーザーが今どこにいて、どういう使い方をしているかなど、日常生活に密接した情報が取れるので、今までのマスメディアのように、インプレッション数が多い少ないというよりは、個人の生活にとって有益になるサービス、広告が求められるのではないでしょうか。
――企業がモバイルをビジネスに生かしきれていない印象があります。障壁になっているものは何ですか。
洲巻 PCにおけるネットサービスが今も伸び続けている1つの要因は、ショッピングができることです。テレビや新聞では不可能だった、ユーザーによる購買を媒体の中だけで完結できる点が評価されたのです。モバイルにもECはありますが、PCと比べてメリットを強く打ち出せていない気がします。
PCの世界では、消費財としては大した市場規模がない書籍が最初にインターネットのECをリードしました。ネットでは商品が見えないしサイズも分からないから購入しづらいという壁がありますが、書籍はどこで買っても同じ価格だし、サイズの違いが問題になることもありません。書籍をきっかけにECサービスがさまざまな分野に広がり、今では何でもインターネットで購入できるようになっています。
モバイルでも、きちんと商品が売れるような構造をつくることが重要です。PCにはない利便性を生かすことで、別の商品群やマーケットが成功パターンとして浮かび上がってくるはずです。
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