鳩山政権、無難なスタート:藤田正美の「まるごとオブザーバー」(2/2 ページ)
日本の民主主義が前進するために民主党は何をすべきか。政権が交代して本当に良かったと感じられる日はいつなのか。
透明性の高い政治を目指して
政治の透明性と言えば、マスコミと民主党の間にいま一種の緊張感がある。鳩山政権が事務次官の定例会見を中止することにしたからだ。その論理は藤井財務大臣が最も明快に語った。官僚は行政のテクノクラートであって、どんな政策を取るべきかを語るものではないというのである。この伏線は農水相の井出道雄次官が、6月に民主党の農業政策(農家への個別所得補償政策)を「現実的ではない」と定例会見で批判したことにある。
この発言はどう考えてもおかしな話なのだ。政府の権力を行使する法律は民主的な選挙で選ばれた政治家によって決められるべきであって、官僚が決めるべき筋合いのものではない。官僚はあくまでも行政のテクノクラートである。もちろん専門家として政治家すなわち大臣などに政策を進言するのは当たり前。しかし政治家に対して「わが省のラインと相容れない」などとは思い上がりも甚だしい。さらに食糧自給率40%と農業を崩壊させかかっていることへの責任を、どう感じているのかがまったく見えないのもいかがなものだろうか。いわゆる狂牛病問題のときも、なぜ警告されていたのに肉骨粉を欧州から輸入したのか、なぜ全頭検査という有効性が疑問視される方策を膨大な資金を投じて取ったのかという疑問に答えることがなかった。
要するに官僚が自分たちの言い訳をしたり、世論を誘導するための次官会見など必要ないというのはごく当たり前の話に思える。マスコミ側はこれに対して「国民の知る権利」を持ち出して反発している。しかし定例会見が開かれないのなら、マスコミは次官に対して個別取材を申し入れるべきである。次官が大臣のお達しを盾に取材を拒否するのなら、そこを批判するのが筋だ。
さらに国民の知る権利というのなら、記者クラブ加盟社を制限して、雑誌や海外マスコミ、フリーのジャーナリストを公式会見などから排除してきた姿勢をまずマスコミが改めるべきだ(一部の記者クラブでは海外メディアなどにも開放されているが、それはごく一部である)。まさか自分たちだけが「国民の知る権利」の代弁者だと思っているわけではあるまい。
官僚と政治家、そしてマスコミ。これまでなれ合ってきた関係が、これからどのように緊張感をはらんだ関係になっていくのか、極めて興味深いところだ。民主党も政権政党になって大きく変わらなければならない。官僚もこれまでのように自民党にすり寄って自分たちの政策を売り込むという体質を変えなければならない。そしてマスコミも政権政党や官僚にすり寄って「情報をもらう」という体質を変えていかなければならない。こうした三者の共通キーワードは「透明性」である。日本という国の権力の行使に「透明性」が持ち込まれるかどうか。これがうまく行けば、将来的に政権に返り咲くこともあるだろう自民党の政治の在り方も変わってくる。そのときに日本の民主主義が一歩前進するのだと思う。
著者プロフィール
藤田正美(ふじた まさよし)
『ニューズウィーク日本版』元編集長。1948年東京生まれ。東京大学経済学部卒業後、『週刊東洋経済』の記者・編集者として14年間の経験を積む。85年に「よりグローバルな視点」を求めて『ニューズウィーク日本版』創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年同誌編集長。2001年〜2004年3月同誌編集主幹。インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテータとして出演。2004年4月からはフリーランスとして現在に至る。
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