【第4回】20世紀型の経営指標では通用しない:21世紀市場を勝ち抜くIT経営(2/2 ページ)
事業規模をひたすら拡大する恐竜型の繁栄はもはや許されない。21世紀では筋肉質な体型にして変化への対応力が高い哺乳類型企業への転換が求められるのだ。
日本の本来の強みを失う
しかも固定費の中で人件費削減が叫ばれた。円高によって一時、日本の労働者が世界で最高水準の給与となったとされ、固定費の増大を招き経営危機を引き起こす、という論調で社員数の削減、契約社員やパートを一気に増大させる、外注やオフショアで外部企業に生産を委託する、という流れを21世紀に入って加速させた。これによって、ファブレス経営、バーチャルカンパニーなど身軽な経営がもてはやされた。内製化によるノウハウの蓄積、こだわり・独自性の発揮、ものづくりの継続性など日本企業の本来の強みが一気に軽視されることになった。
結果、21世紀経営で最重要となる付加価値額は、表向きは高いほど良いとされたが、それはあくまでスローガンで、実現目標なレベルほどに重要視されなかった。というのは、付加価値額=利益額+償却額+人件費で算出されるため、人件費を抑え込むことが目標となりある程度までしか高められないということになってしまったからだ。
この目標設定によって会社内に正規雇用社員と非正規雇用者の壁を創り出し、これまでの日本企業の美徳とされた一体経営によるチーム力増大の文化を消滅させた。「コツコツと継続して努力すれば自分も皆も報われる」という米国、中国、韓国とは一線を画する日本企業の強みが失われることになってしまった。
カメの歩み戦略を推し進めろ
それでは、日本企業が21世紀を勝ち抜くために経営指標をどのように設定すべきか。その答えは、非成長市場において日本企業の強みを十分発揮する目標値設定である。わたしが主張してきている「カメの歩み戦略」である。ウサギとカメの童話を教訓として、「継続は力なり」を続け、もうからないからといってすぐにあきらめない、こだわり・独自性を貫き、安かろうではなく付加価値で勝負する。そのためには外注よりも内製化を重要視して、ビジネスの継続性と社員のスキル向上で勝ち抜く。
上記のことを達成するために、「付加価値の増大」を重点キーワードとする。売上高伸長率を年3〜6%程度にとどめ急激な規模拡大を抑え込み付加価値増大に力を蓄える。ただし、売上高経常利益率は、付加価値を顧客に認めてもらいビジネスを継続させていくために、10%を目標とする。20世紀においては中小企業にとって経常利益率10%は夢のような話であったが、こだわり・独自性を重視した内製化重視による付加価値向上戦略で自立型経営を確立していけば十分に実現可能な目標である。
内製化重視のために正規社員の雇用増大が必要である。人材教育と報酬などでやる気創造を図りスキルアップを重点施策とする。これによって利益率向上とともに固定費も増大するため、損益分岐点比率はある程度までしか下げられない。
一方、付加価値額は、増大できるため高いほど良いという目標設定が可能となる。労働分配率は人件費とのバランスで目標設定する。外注などに関しても先に外注ありきではなく自社のこだわり・独自性をサポートしてもらうという範囲で目標設定することが大切である。
著者プロフィール
上村孝樹(かみむら たかき)
ジャーナリスト/経営・ビジネスアドバイザー
1949年新潟県生まれ。青山学院大学経済学部卒業。日本ビジネスコンサルタント(現日立情報システムズ)を経て、1980年、日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。81年日経コンピュータ誌創刊とともに、同誌編集部記者、同副編集長を経て、93年3月、日経情報ストラテジー編集長。95年5月から同誌発行人を兼任。98年3月にコンピュータ局主席編集委員。2003年1月、日経アドバンテージ編集長、同年3月発行人を兼任。2005年4月、日経BP社を退職し、フリーとしてジャーナリスト/コンサルティング活動開始。2004年から金沢工業大学大学院客員教授に就任。2007年から事業創造大学院大学のIT経営講座・主任教授に就任、同年年5月から「IT経営講座」を開講している。
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