「ITに理解が足りない経営者が多い」――リコー・遠藤副社長
このほど開かれたユーザー企業の情シス部門向けイベントでは、経産省主導による「IT経営協議会」のメンバーがITを活用した企業経営の実践について議論を深めた。
社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)は9月3日、4日に、ユーザー企業の情報システム部門を対象としたセミナーイベント「IT ガバナンス 2008」を開催した。2日目の基調パネルディスカッションでは、「日本企業の未来を占う『IT経営』の本質とは?」をテーマに、リコー 取締役副社長 執行役員の遠藤紘一氏、茨城大学准教授の後藤玲子氏、経済産業省 商務情報政策局 文化情報関連産業課長の村上敬亮氏が現状の問題点などを議論した。モデレーターはガートナー ジャパン リサーチグループ バイスプレジデントの山野井聡氏が務めた。
パネルディスカッションでの議論の土台になっているのが、今年6月に経産省が主体となりITによる日本の産業競争力の強化を目的に発足した「IT経営協議会」、およびIT経営の実践に向け経営者の視点から取り組むべき事項のエッセンスをまとめた「IT経営憲章」である(関連記事:「IT経営協議会」発足、憂国の経営者がITを生かした経営を討議)。IT経営協議会は、ITを活用した企業経営について経営者同士が議論する会合で、現在、トヨタ自動車、松下電器産業、イオンなど国内大手27社が参画する。
参画企業のCIO(最高情報責任者)は有識者とともに2007年11月に「CIO戦略フォーラム」を立ち上げ、意見交換を行ってきた。委員長を務めるのが遠藤氏で、後藤氏、山野井氏も専門家委員として参加している。同フォーラムの主導役である村上氏は「ITおよびサービス産業に関しては日本経済に対する生産性が低く、その原因を解明する必要があった」と設立の背景を説明した。
企業がITを導入する目的の1つは業務改革である。IT活用の遅れる日本では「ITによって労働の質を改善できてはいない」と後藤氏は話す。一方で米国は幅広い業種でITを戦略的に活用して高い生産性を上げているという。日本の現状について遠藤氏は「(IT活用は)日本政府が特にひどい。電子政府といっても既存の業務プロセスを改善せずにそのまま電子化しただけ」と切り捨てた。構成メンバーとして参加する内閣官房IT担当室の「次世代電子行政サービス基盤等検討プロジェクトチーム」での経験によるものだ。
経営者が分からないのはITだけではない
なぜ日本でIT活用が進まないのか。その理由としてITに対する経営者の理解不足が挙げられる。「ITは金食い虫」という言葉が象徴するように、システム保守をはじめ多大なコスト負担などからITに懐疑的な目を向ける経営者は多い。リコーのCIOとして経営側と現場側の双方からIT投資を判断する立場にある遠藤氏は「ITを導入すれば必ず成果が出ると幻想を抱き、効果を急ぎすぎる経営者が多い。成果に結び付くようにゴールまでの道を可視化して、問題をその都度分析することが重要だ」と強調した。
経営者がITを分からないという点については、「恐らくその経営者はITだけでなく、ほかの業務すべてに対して理解が乏しい。これは情報システム部門だけの問題ではなく、会社全体の問題だ」と危機感を募らせた。一方で、業務改革の最終的な判断は経営者が下すため、「情報システム部門もIT投資の効果を経営陣に明確に示さなくてはならない」(村上氏)としている。
その中で経営者を支える役割のCIOが持つべきスキルは何か。後藤氏は著作『CIO学―IT経営戦略の未来』の中で、情報を利活用しプロセスや変革のマネジメントができる人材だと説明する。
遠藤氏は「CIOを特別視する必要はない」と断言。「ITを細かく知る必要はない。分からないことを分からないと言えることが重要で、知ったかぶりをしないことだ」と力を込めた。
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