完璧な企画書に潜む落とし穴:つい踏んでしまうプレゼン失敗の地雷(2/2 ページ)
「プレゼンテーションは企画が命だ!」という意見をよく耳にする。あながち間違いではないが、どんなに企画自体やプレゼン資料が優れたものであったとしても、プレゼンの方法を誤るとせっかくの企画も台無しになってしまうのだ。
プレゼン=発表の場ではない
わたしもプレゼン場面で参加者にこっくりやられた経験があります。眠ってないにしても、勝手に企画書をパラパラやられて、こっちの話など聞いちゃいない、といった場合も幾度となく経験があります。皆さんはいかがですか。これってこたえますね。力を入れて準備したときほど、落胆度合いは大きいものです。
そこで、わたしなりに工夫するようになりました。要は、参加者をいかにプレゼンに引き込むか、です。ここで大事なことは、プレゼンテーション=発表と考えないことです。一方的な主張の場ではなく、聞き手にも参加してもらう、つまりコミュニケーションの場と考えることです。
実例で紹介しましょう。ある企業の入社案内パンフレットを提案したときのことです。このときは複数社がプレゼンを行っており、最後にわたしたちが会議室に入った時には、参加者の顔に疲れが見て取れました。元気な声で力強く話し始めたものの、参加者はうつむき加減で、今ひとつ盛り上がらない雰囲気。そこでわたしは、こんな風に切り出しました。
「…今回のパンフレットは、赤を基調にしたデザインとなっています。えー、そうですね、ちょうどS部長さまのネクタイと同じような、パンチのある赤です。赤という色は…」
こんな具合に、プレゼンの受け手を勝手に登場させたのです。その瞬間、下を向いていた参加者も顔を上げ、全員の視線がS部長のネクタイに注がれました。S部長は照れ笑いを浮かべています。何となく沈んでいた空気が少しだけ明るくなりました。こうしてまた参加者を聞くモードに引き戻したのです。
そんな単純な、と思われるかもしれませんが、不思議なことにこうした仕掛けは、単純で瞬間芸でないといけない。策を弄すると、経験上たいてい失敗します。この手の作戦をもう少し紹介しておきましょう。いずれも拙いレベルですが、TPOさえ間違えなければ、意外と効果があります。
聞き手に質問する
「…皆さんは1番と2番、どちらだと思われますか? えー、では藤田様、いかがでしょうか? そう、1番ですよね、ありがとうございます。われわれが行ったアンケート調査でも、1番を選択された方が83%いらっしゃいました」
このように、即答できるような単純明快な質問を参加者に投げ掛け、話に参加させてしまうのです。印象に残したい項目で行うと、より効果的です。
企画書に空欄を作っておく
試験問題みたいなものです。企画書の肝心な部分で、( )を作っておきます。そして説明後に、参加者に書き込んでもらうようにします。自分で書いた分、必ず記憶に残ります。
資料にないページを入れる
特に配付資料とスライド、同じものを使う場合は、意図的に異なるページをスライドに差し込みます。「これ、手元の資料にはありませんが…」の一言で、参加者の視線をスライドに集めることができます。
数秒間の沈黙
話続けている途中で、意図的に、5〜10秒間くらいの沈黙を作ります。不思議なもので、睡魔に襲われている人も、勝手に企画書を読み進めていた人も、場の空気が変わったことに気付いて、顔を上げます。これは話が上手い方の、間の取り方と同じですね。
これらをまとめて、わたしは「フェイスアップ作戦」と命名しています(大げさですね)。とにかく顔を上げさせて、プレゼン参加者に、話に入ってきてもらうのです。一方通行なプレゼンは、思いのほか伝わらないものです。プレゼンの中身、企画書のデキに自信があるときほど、必ず聞かせる工夫をほどこす。これが失敗の中からわたしが学んだことです。
著者プロフィール
中村昭典(なかむら あきのり)
元リクルート・とらばーゆ東海版編集長。現在は中部大学エクステンションセンターで社会貢献事業を推進。個人の研究領域はメディア、コミュニケーションおよびキャリアデザイン。所属学会は情報コミュニケーション学会、日本ビジネス実務学会ほか。
著書に『伝える達人』(明日香出版社)、『雇用崩壊』(共著、アスキー新書)。11月には『親子就活 親の悩み、子どものホンネ』(アスキー新書)が発刊される予定。
ITmedia オルタナティブ・ブログ『中村昭典の、気ままな数値解析』は、メディアにあふれるありとあらゆる「数値」から独自の視点で世の中を読み解くスタイルが人気。
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