【第13話】アイデアの連鎖:内山悟志の「IT人材育成物語」(2/2 ページ)
奥山、宮下、阿部、浅賀の4名は、ブレインライティング法を使って課題の洗い出しを始めた。しかし、情報システムに関する知識のない経営企画部のメンバーはアイデア出しで行き詰ってしまう。
発想の方向性
全員が3枚のカードを書き終わったらシートごと隣に回し、また上の行のカードをヒントに3枚のカードを書くという作業が黙々と続いた。ブレインストーミングとカードBS法は、何の制約もなく思いついたままにアイデアを出していくという意味で、「自由連想法」という種類の発散の技法である。
ブレインライティング法も自由連想法に属する手法ではある。しかし、前の人が書いたアイデアをヒントにして発展させていくという点で、考える方向性にある程度の制約があるため、「強制連想法」の要素を取り入れた手法と言える。ちなみに、強制連想法とは、考える方向性を示してそれに結び付くアイデアを発想する手法である。例えば、電化製品の新商品を考案しようとするときに、「持ち運び」や「小型化」という方向性を示したり、健康食品の新商品のネーミングを検討する際に、「女性向け」や「高齢者向け」といった訴求対象を示したりして、発想の方向付けを効果的に行うことが可能である。
発散の手法には、これ以外に「類比発想法」というものもある。類比発想法は強制連想法と同様に考える方向性を限定する方法だが、より具体的に類似するものとの共通点をヒントとして発想するものである。例えば、マグカップを改良した新商品を開発しようとする際、まずマグカップと同じように飲み物を入れる機能を持ったものを考え、「ポット」が出てきたら、ポットをヒントとして新しいマグカップはどんなものかを考え、そこから「保温性のあるマグカップ」が導き出されるといった具合に発想していくのである。
このように、発散の手法にもいくつかの種類があり、与えられた課題にどの手法が最も適合するかを考えて選ぶことが求められるのである。前回、前々回のような検討テーマやビジネス課題の洗い出しには自由連想法が向いており、今回のような解決策の洗い出しの場合は、最初の1行目を固定するなど、やや方向性を限定した手法が効率的と言える。ただし、あまりにも強い制約をかけてしまうと、浅賀が「システム構造」のカードで行き詰ってしまったようにアイデアを閉塞させてしまうため、緩やかな制約にとどめるのがコツである。
4人は、時々行き詰まっては川口にアドバイスを求めながらも、何とかシートを1周させて解決策の洗い出しを終えたのだった。
著者プロフィール
内山悟志(うちやま さとし)
株式会社アイ・ティ・アール(ITR) 代表取締役/プリンシパル・アナリスト
大手外資系企業の情報システム部門、データクエスト・ジャパン株式会社のシニア・アナリストを経て、1994年、情報技術研究所(現ITR)を設立し代表取締役に就任。ガートナーグループ・ジャパン・リサーチ・センター代表を兼務する。現在は、IT戦略、IT投資、IT組織運営などの分野を専門とするアナリストとして活動。近著は「名前だけのITコンサルなんていらない」(翔泳社)、「日本版SOX法 IT統制実践法」(SRC)、そのほか寄稿記事、講演など多数。
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