【最終回】新時代のイノベーションを実現するリーダー:潮目を読む(3/3 ページ)
グローバル企業と比べて日本企業の多くのCIOは、調整タイプのIT部門長であり、たとえ社内でうまく役割を担っていたとしても、外部環境で通用するかは疑問である。
経営とITを融合させるCIOのキャリアパスとは
本調査結果に対するわたしの見解についてお話します。日本型のCIOの特性で行動した場合には、大規模な改革や変革のスピードに対応するITの仕組み作りは後れを取ることになるでしょう。世界の動きの速度が増すほど、日本型CIOの行動では大変厳しいと言わざるを得ません。これは日本のITサービスプロバイダ業界にとっても影響のあることで、日本企業の多くが国際競争力を失う恐れを意味していると考えます。
グローバル化が進み、単純な輸出モデルだけでは成立しなくなる中で、企業には新しいビジネスモデルを作り出すことが求められています。それは第5回でも述べたように全世界を1つの企業活動の場ととらえ、経営資源を最適化するモデルですから、ITを徹底的に活用し、世界中の資源を同時に管理できる仕組みを実現しなくては経営が成り立ちません。このようなモデルを実現する場合には、CIOはCEOに近い能力が必要になってきます。
グローバルの高成長企業のCIOはビジョンを描き、それを実現することに軸足を置いています。すなわち、経営とITを融合させるという高い専門性を保有しているので、他企業、あるいは他業界においても価値を発揮できるプロフェッショナルと言えます。一方、日本企業のCIOは、厳しい見方をすれば多くが調整タイプの部門長であり、社内ではIT開発、運用サービス提供という役割で通用しても、外部では果たして成果を出せるのかという疑問が生まれます。
新時代のプロフェッショナルCIOのあり方として、わたしが思い描く1つの姿は、大きな改革や変革の成功後は、次の新たな企業に移りそこでもまた改革を成功させ、プロフェッショナルとしての専門性や能力を築き上げていくというものです。それは1つの確立したプロフェッショナルとして企業を超えたキャリアパスと言えるでしょう。
新時代には、実現すべきビジネスモデルやプロセスも今までに経験のないものが増え、ITはより高度化、複雑化して選択肢が増え、迅速に成果を出すことが要求されます。このような状況においては、グローバル高成長企業にみられるCIOタイプの方に優位性があるのではないでしょうか。今後は日本企業のCIOも、ほかの企業で通用するビジョナリストとしての実現能力を身に付けるべきだと考えます。これが経営とITを融合させ革新的な戦略を実現する新時代の“CIO=Chief Innovation Officer”となる道筋と言えるでしょう。
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著者プロフィール
椎木茂(しいのき しげる)
日本アイ・ビー・エム(日本IBM)株式会社 専務執行役員GBS事業 セクター統括担当 兼 アイ・ビー・エム ビジネスコンサルティング サービス(IBCS)株式会社 社長
1950年鹿児島生まれ。1972年に東京理科大学理学部卒業。株式会社ドッドウェル、プライスウォーターハウスコンサルタント株式会社を経て、2004年にIBCSから日本IBMに出向し、サービス事業、プロジェクト・オフィス担当。2005年1月にストラテジー&コンピテンシー、ビジネスバリュー推進担当。2006年4月、執行役員 ドリーム事業担当。2006年7月、執行役員 ドリーム事業担当 兼 IBCS代表取締役社長。2007年1月、執行役員 ビジネス・バリュー推進担当 兼 IBCS代表取締役社長。2009年7月より現職。
ビジネスプロセス革新協議会(BPIA)の常務理事も務める。
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