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【第15話】人の好き嫌い内山悟志の「IT人材育成物語」(2/2 ページ)

阿部と浅賀が加わった最初の勉強会を終えた面々は、いつもの食事処へと向かった。そこには、数週間前と同様に、情報システム部長の秦野と経営企画部長の吉田が5人を待ち構えていた。

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この世に嫌いな人がいない

 受講者が4人に増えても、勉強会終了後にいつもの食事処に立ち寄る習慣は継続された。今回から参加した阿部と浅賀も、川口たちともっと話がしたいと思っていた。

 奥山が先頭を切って食事処に入ると、そこには情報システム部長の秦野と経営企画部長の吉田が、5人が加わっても座れるように大き目のテーブルを陣取っていた。吉田は「さあさあ、皆を待っていたのだよ。」と、少し紅潮しながらも満面の笑みを浮かべて5人を招き入れた。

 腹を空かせた5人はあれこれと注文し、しばらく今日の勉強会を振り返りながら部長連中にその様子を自慢げに説明した。阿部と浅賀も、この勉強会に参加させてもらったことを吉田に感謝していた。

 しばらくして、奥山が吉田に「吉田部長はいつもニコニコして、どんな人にも同じように親切で親しげにお付き合いされているなと前から思っていたのですが、苦手な人や嫌いな人はいらっしゃらないのですか」と問い掛けた。吉田は、奥山の唐突でストレートな質問に少し困惑しながらも、いつもの丁寧な口調で話し始めた。

「僕にも好き嫌いはあるし苦手な人もいるよ。誰しも苦手な人、好まない人がいることは仕方ないことだ。同僚、上司、取引先、お客さまなど付き合いが広くなればいろいろな人がいるので、万人を好きになり、万人から好かれるということは無理なことだ。

しかし、人付き合いにおいては、好き嫌いを押し通してばかりもいられないし、特にビジネスともなれば、少々好まない人とでも上手に付き合っていかなければならない場面もある。敵を多く作ることはあまり得策とは言えない。そこで僕は、付き合う相手を2つのタイプに分けることにしている」

「好きな人と嫌いな人の2種類ですよね」と宮下が合いの手を入れた。これに対しても吉田は、にこやかな表情を変えずに続けた。

「いやいや、そうではない。2つのタイプとは『好きな人』と『何でもない人』だ。これはビジネスの付き合いだけでなく、プライベートな人間関係にも当てはまる。好きな人とは、尊敬できたり、楽しく付き合えたり、その人にために何か役に立ちたいと思う人だ。一方、何でもない人というのは、好きでも嫌いでもない人で、尊敬もしていないし、深く付き合おうとか、特に何かしてあげたいと思わない人だ。つまり、自分の人間関係の輪、あるいは意識の中から除外してしまうのである。

従って、僕にはこの世に嫌いな人というのは存在しないのだよ。どうしても気に入らないとか、裏切られたと思う人は、嫌いな人というジャンルに入れるのではなく、何でもない人というジャンルに入れてしまう。そうすれば腹も立たないし、嫌な思いをすることも少なくて済む。人はさまざまだし、多様な価値観や行動様式を持っているものだ。自分の考えに合わないからといって、その人の考えを真っ向から否定したり、無理に変えようと思うと余計に関係を悪くする。誰かを嫌いになりそうになったら、頭の中で、『何でもない人』というラベルをその人のおでこに張り付けてしまえばいいのだよ」

 この話を聞いた奥山は「すごい! 吉田部長の考え方って面白いですね。わたしもそれ真似させてもらおう。“おでこにピタッ”ですね」とはしゃぎ声を上げた。楽しい歓談は続いた。


著者プロフィール

内山悟志(うちやま さとし)

株式会社アイ・ティ・アール(ITR) 代表取締役/プリンシパル・アナリスト

大手外資系企業の情報システム部門、データクエスト・ジャパン株式会社のシニア・アナリストを経て、1994年、情報技術研究所(現ITR)を設立し代表取締役に就任。ガートナーグループ・ジャパン・リサーチ・センター代表を兼務する。現在は、IT戦略、IT投資、IT組織運営などの分野を専門とするアナリストとして活動。近著は「名前だけのITコンサルなんていらない」(翔泳社)、「日本版SOX法 IT統制実践法」(SRC)、そのほか寄稿記事、講演など多数。



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