孫や曾孫の幸せを願い取り組んだ行政改革―――土光敏夫【最終回】:戦後の敏腕経営者列伝(2/2 ページ)
石川島播磨重工業、東芝の再建を経て、土光が最後に取り組んだのが日本の再建であった。そのために土光は鈴木善幸総理から請われ、第二次臨時行政調査会の会長を引き受ける。果たして、その顛末とは――。
老骨にむちを打って取り組んだ行革の行方
経団連の名誉会長を務めていた土光は1981年、第二次臨時行政調査会(第二次臨調)の会長を引き受けたことで、その名を世間に広く知らしめることになる。土光は行政改革を断行すべく、国民に対して次のように訴える。
「行革を行わなくては、いずれ国民は大増税で泣きを見ることになる」「政府にばかり依存しないで、自分たちでできることは政府に頼らないで――小さな政府が必要だ」
こうしたインタビューが連日報道され、また、土光の自宅での質素な食事がテレビで放映されたことで、土光人気、さらに行革熱は大いに盛り上がる。土光も行革のためにあらゆる手立てを講じた。公私混同を嫌い、自宅にテレビカメラが入ることを一度は断った土光が取材を受け入れたのは、行革がさまざまな妨害を受けている中、質素な生活をしている姿を国民に見てもらうことなくして行革の成功は危ういとの秘書の提言を受け入れてのものだった。そこでの食事で食べていたのがメザシであったことから、“メザシの土光さん”というニックネームも生まれた。
ともあれ、これを機に政府各省庁からの行革の妨害はピタリと止み、行革に異を唱える政治家もいなくなったことで臨調の審議は急ピッチで進展する。ただし、皮肉なことに土光に臨調会長の就任を依頼してきた鈴木善幸総理は道半ばで辞職。その後、政府は最終的に増税を決定し、土光の「増税なき財政再建」はなし崩しの状態に陥った。土光の無念さはどれほどのものであったのか――。それは、会見に臨む土光の目に涙が光っていたことからも容易にうかがうことができよう。
2年間の臨調会長、その後3年間の臨時行政改革推進審議会の会長を勤め上げた土光は1986年、次のようなメッセージを国民に発している。
「行政改革は、21世紀を目指した新しい国造りの基礎作業であります。わたしは、これまで老骨に鞭打って、行政改革に全力を挙げて、取り組んでまいりました。わたし自身は、21世紀の日本を見ることはないでありましょう。しかし、新しい世代である、わたし達の孫や曾孫の時代に、わが国が活力に富んだ明るい社会であり、国際的にも立派な国であることを心から願わずにはいられないのであります」
ほぼ四半世紀を過ぎた現在、日本は土光が願ったような国になっているのか。それとも――。 (完)
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