失敗からの脱却――日本の宇宙開発はなぜ成功し続けるのか:システムデザイン・マネジメントのススメ(3/3 ページ)
ロケットの相次ぐ打ち上げ失敗など、2000年前後の日本の宇宙開発は実に厳しい状況が続いていました。ところが一転、ここ5年間は連戦連勝の成果を収めています。その背景には一体何が隠されているのでしょうか。
日本初のシステムデザイン・マネジメント教育
慶應義塾大学は2008年に独立大学院である「システムデザイン・マネジメント研究科(SDM研究科)」を開設しました。ここでいうシステムデザインは、「システムの価値、目的、機能、構築、運営、利害関係などあらゆる要因を将来に渡る予測も含めて創造的に考え、総合的にバランスさせ、具体的な姿にすること」を意味し、システムマネジメントは、「その実現のために多様な視点から適切な目標を立て、環境の変化や人間とシステムの関係を含むさまざまな要因を調整し、目的達成に必要なあらゆる活動を整合的に進めること」を意味します。
システムデザイン・マネジメント学は、あらゆる大規模・複雑システムを創造的にデザインし、確実にマネジメントするための学問体系であり、SDM研究科はその能力を持つ人材の育成を行っています。
この大学院は、システムズ・エンジニアリングを本格的に扱う日本で初めての研究教育機関で、学生の6割が官公庁、メーカー、通信、金融、マスコミ、法曹、医療、ベンチャーなどさまざまな分野での実務経験者であり、2割が留学生であり、教員のほぼ全員がビジネスや開発の現場経験者であることも特徴です。
グローバル化や地球温暖化、少子高齢化などによって、明治維新に匹敵するパラダイムシフトが起こっている現在、SDM研究科では学生や教員が実社会の課題を持ち込み、相互に学び、教え合う「半学半教」の精神で課題解決に取り組み、国内外のさまざまな組織と連携しつつ、その成果を社会に還元しています。例えば、昨年末のアラブ首長国における原子力発電システムの国際入札において、個別の製品の性能を売り込んだ日本企業が、人材育成やシステム保守など顧客の需要を把握してシステム全体を売り込んだ韓国に負けてしまったことなどは、システムデザイン・マネジメントに関する研究教育の必要性を示す好例です。
また、原子力発電システムや宇宙航空システムのみならず、バリアフリーシステムや人体システム、アライアンスシステムなども、多くのものとの相互関係の中で機能するという意味では、大規模・複雑システムであり、システムデザイン・マネジメントによる課題解決の対象です。
次回からは、システムズ・エンジニアリングをベースにしたシステムデザイン・マネジメントについて紹介するとともに、システムデザイン・マネジメントの手法を取り入れる必要性について、身近な具体例などを用いながら考えていきます。
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著者プロフィール
神武直彦(こうたけ なおひこ)
慶應義塾大学准教授
慶應義塾大学 システムデザイン・マネジメント研究所 エアロスペース・インテリジェントシステムズラボ代表
宇宙開発事業団に入社し、H-IIおよびH-IIAロケット搭載機器の研究開発とロケット打ち上げに従事。H-IIロケット8号機失敗時には、深海調査船に乗船してエンジン捜査に従事し、宇宙システム以外の大規模・複雑システムのデザインにも興味を持つ。その後、欧州宇宙機関訪問研究員を経て、宇宙航空研究開発機構主任開発員。国際宇宙ステーションや人工衛星に搭載するソフトウェアの独立検証・有効性確認の統括およびアメリカ航空宇宙局、欧州宇宙機関などとの国際連携に従事。2009年より現職。専門は、宇宙システムおよびユビキタスシステムのデザインとマネジメント。
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