【第18話】根源に立ち返る:内山悟志の「IT人材育成物語」(2/2 ページ)
策定した評価マトリックスに基づいて、これまで洗い出した施策案を評価し絞り込みの作業が行われた。4人は、これまでの一連の検討を通して、ITを最大限に活用する企業風土を築くことこそが今最も重要だということに気が付かされるのだった。
課題を掘り返す
川口は、一通り皆の意見が出たところで、壁に貼ってある模造紙を指差した。それは、初めに課題の洗い出しを行った時のものだ。「確かに皆の言う通りだ。絞り込んだ施策はどれも重要だが、これまで有効に機能してこなかった原因が何かあるのではないだろうか。それは、きっとすでに洗い出されているはずだ。最初に洗い出した課題をもう一度見直してみてはどうだろう。そこには、きっと根源的な課題が潜んでいるはずだ」。
川口の提案に、4人は立ち上がり模造紙の前に立った。そして、それぞれに何枚かの付箋紙を剥がし、ホワイトボードに並べて貼り直した(図1)。
あらためて根本原因と思われる課題が並んだホワイトボードを眺めていた浅賀が「システムというよりも、人に関する課題が挙がっていますね。経営者とユーザーとシステム部門の3者にまつわるものに分類できそうです」とつぶやいた。
これに反応して、宮下が「システムの整備に血道を上げても、それが有効に使われなければ意味がない。それに、適正な投資をして、そこから効果を生み出していくためには経営者のコミットやIT部門の働き掛けなど、ITを最大限に活用する企業風土を築くことが根源的な課題を解決する施策のように思えてきました」と述べた。
川口の指示を待つことなく、4人は「施策案も見直してみよう」と、もう1枚の模造紙に移動した。
著者プロフィール
内山悟志(うちやま さとし)
株式会社アイ・ティ・アール(ITR) 代表取締役/プリンシパル・アナリスト
大手外資系企業の情報システム部門、データクエスト・ジャパン株式会社のシニア・アナリストを経て、1994年、情報技術研究所(現ITR)を設立し代表取締役に就任。ガートナーグループ・ジャパン・リサーチ・センター代表を兼務する。現在は、IT戦略、IT投資、IT組織運営などの分野を専門とするアナリストとして活動。近著は「名前だけのITコンサルなんていらない」(翔泳社)、「日本版SOX法 IT統制実践法」(SRC)、そのほか寄稿記事、講演など多数。
関連キーワード
情報システム部門 | 人材 | 研究会・勉強会 | アイデア(発想) | IT人材 | 内山悟志の「IT人材育成物語」 | ブレインストーミング | IT投資 | IT戦略 | 課題解決
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「IT部門のリーダーこそ現場に飛び出せ」――ITR・内山代表
低迷からの脱却が求められる2010年。企業のリーダーこそが真っ先に現場に出るべきだとITRの内山代表は語る。 - 【第15話】人の好き嫌い
阿部と浅賀が加わった最初の勉強会を終えた面々は、いつもの食事処へと向かった。そこには、数週間前と同様に、情報システム部長の秦野と経営企画部長の吉田が5人を待ち構えていた。 - 【第14話】漏れなく、ダブりなく
沈黙のブレインストーミングによって、4人は何とか解決策の洗い出しを終えた。川口はこれ以上の集中した作業を行うのは困難と判断し、余談を交えて脳をほぐす演習を与えた。 - 【第13話】アイデアの連鎖
奥山、宮下、阿部、浅賀の4名は、ブレインライティング法を使って課題の洗い出しを始めた。しかし、情報システムに関する知識のない経営企画部のメンバーはアイデア出しで行き詰ってしまう。 - 次代の経営を担うIT部門リーダーを育てる私塾
人材育成は重要だ。これはどの企業も理解していることだが、即効性のなさから二の次になりがちである。しかし将来の経営を見据えた場合、若手社員の成長なくして企業の成長はない。