歴史の空白に挑む――「文革 南京大学14人の証言」:経営のヒントになる1冊
1966年から10年間続いた中国の動乱「文化大革命」。誰も正面から語ってこなかった闇に光を当てる。
2008年に行われた北京オリンピックの開会式。中国を代表する映画監督、張芸謀(ジャン・イーモー)の演出で描かれた中国の歴史絵巻のパフォーマンスでは、論語、紙、活版印刷の発明、万里の長城、羅針盤の開発、鄭和の大航海などが次々に登場し、会場は熱狂した。しかし、文化大革命(文革)を含む毛沢東時代は触れることなく「空白」であった。張監督自身、文革に巻き込まれ、数年間、農村や工場での労働に従事させられた経験を持つからだ。
本書は、中国現代史研究をリードする歴史学者が、南京大学(北京大学と並ぶ、中国の名門大学。日本でいえば、京都大学のような存在)を舞台に、被害者や加害者などさまざまな立場で文革にかかわった14人の知識人を徹底的にインタビューし、その証言から、これまで正面から語られてこなかった中国現代史の空白を埋めるものである。
なぜこれまで文革に対する議論が活発になされなかったのであろうか。本書が中国、香港に先立って、日本で先行発売されたことからも明らかなように、文革について、その意義を問い続ければ、現在の中国共産党のガバナンスの正当性を根底から覆すことになりかねない。そうした事情から中国国内での真正面からの歴史研究は難しいと言われているのだ。しかし、本書では文革に深くかかわった人物の証言を基に「文革とは何だったのか」という問題に深く斬り込むことで、現代の中国社会の光と闇を明らかにしようとしている。
加えて、そもそも文革を知らないという読者のために、30代前半の気鋭の中国現代史研究者である3人の日本人訳者によって、「これだけは知っておきたい文革の基礎知識」といった解説やコラムも収録されている。本書をより深く味わうための一助となるだろう。
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