密室商法の現場に潜入、そこから学んだこと:生き残れない経営(3/3 ページ)
駅前を歩いていたら主婦らを相手取ったたたき売りが行われていた。これはと思い店の中に入ってみると……。
顧客のしぼり込み
入店から2時間ほど経過し、筆者は次の用件があるので退室しようとしたが、若者にとがめられた。事情を話してようやく退室を認められたが、紅白の幕をめくって靴をはこうとしたところ、外をガードしている2人の若者に押し戻されそうになった。事情を話して何とか開放された。数人のビラ配り、店の前で砂糖を売る役、中年説明員、相づちを打つ若者、外界との間でしっかりとガードする若者、彼らのチームワークは実に見事である。
ほかの用件を済ませて1時間後に帰宅した筆者を、妻が「わたしも今帰ったばかり」と迎えた。妻が手に入れた品物は筆者が退場した時点から増えていなかったが、妻は退屈しなかったと言う。中年説明員から妻を含む3人に「あなたたちはもう帰っていい」と言われて退場したそうだ。
妻によると、参加者の中でも若い人たちが追い出されたそうだ。押しに弱そうな高年配女性10人ほどが残されたらしい。顧客のしぼり込みだ。そうすると、筆者のような男は彼らにとってお望みでなく、実は退場されてホッとしたのではないか。
過去同じような経験がある妻によると「最後に、断り難い状況の中で数十万円する布団などを売りつけられる」そうだ。翌日、駅に行ったついでに店を確認すると、シャッターが下りて静かな閉鎖店舗に戻っていた。
企業も学ぶべきことがある
ここでいくつかの事例が思い出される。以前、SIベンダーの製品説明会に出たとき、前座とみられる若手の説明が理路整然として実に分かり易く説得力があったのに、その後に出てきた真打とみられる中年女性の説明は筋が通らず、しかも「えー」「あのー」を頻発して聞き難く、どうしようもなかった。訓練された形跡も、チームワークのかけらもない。密室商法の彼らのような、顧客を退屈させない説明とチームワークを学んでほしいものだ。
ある取引先の問屋の課長に言われたことも思い出す。「A社の営業マンは、サッパリしていますよ。今忙しいと言うとすぐに帰ってしまう。競合B社の営業マンはしつこいですよ。忙しいと言われて帰ったのかと思っていると、ずいぶん時間が経ってからも入り口に立ち続けていました。しかし、どちらも知恵も工夫もないねえ」。
世の中の企業営業のほとんどは、あまりにも行き当たりばったりではないか。戦略を十分に練り、徹底した教育は施されているのか。密室商法の彼らの方が優れてはいないか。彼らは当たり前のことが徹底されている。しかも中途半端ではなくほぼ完璧だ。
- 徹底的に教育、訓練されていて、チームワークが良い。
- まず顧客に興味を持たせて、目を向けさせる仕掛けがある。
- いかにも顧客の喜びそうな商品を用意する。
- いったん捕まえた顧客は、ユーモア話法と一体感の醸成で容易に離さない。
- 自分の分野に合う顧客を選別してフォーカスし囲い込む。
- 目的を必ず成し遂げる。
このことは、小グループだから徹底できるというものではない。企業の大小に関係ないのだ。
増岡直二郎氏による辛口連載「生き残れない経営」のバックナンバーはこちら。
著者プロフィール
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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