【第4回】クラウドにより変わるシステム運用:ヒトの働き方を変える新・クラウド戦略(2/2 ページ)
今回からはITにかかわる方々にとって、より直接的な業務に近い情報システムの運用面から、「新・クラウド戦略」を語ってみたい。
レイヤー4の実現パターン
- Javaや.NETでITベンダーやソフトハウスに開発を委託する
- 基盤としてLotusNotes/Dominoを利用し、エンジニアを常駐させる
- Microsoft OfficeのAccessやExcelをファイルサーバで共有することを容認している
最近ではセールスフォース・ドットコムからForce.comという開発基盤がPaaSとして提供されているので、Froce.com上にLotusNotes/Dominoと同じようにアプリケーションを作り込むことで、基盤のバージョンアップから解放されている企業があるかもしれない。
しかし、どのパターンにせよ、担当者により独自に作り込まれてしまったアプリケーションはITサービスマネジメントの観点からすると疑問が残る。
作成時点では最大の価値をもたらしたアプリケーションも、ビジネスが変化したり、フローが変わったりという環境の変化に対し柔軟に対応することは難しく、また担当者の人事異動や組織変更が起こると継続的な改善を行っていくことも困難となる。
結果として、作ったはいいが使われていないアプリケーションがサーバリソースを圧迫し、継続的な変更作業のためにエンジニアを常駐させるといった大きなキャッシュアウトを招くこととなる。
クラウド活用にもビジネス感覚を持つ
では、「レイヤー4:アプリケーション」をクラウドで実現していくためには、どのような方針をとればよいのだろうか。
われわれはコンサルタントとしてさまざまな企業で情報システムにかかわる業務を行っているが、ビジネスにおける直接的な価値を生まない非競争領域で、独自のアプリケーションを作り込んでいる例を見ることが少なくない。
例えば、契約書の管理システムというと、多くの企業が独自に作っているが、その仕様を見ると驚くほど似ていることがある。異なるのは承認のステップであったり、ちょっとしたお助け機能だったりという場合がほとんどだ。それはまだよい方で、場合によっては同じ企業内でもちょっとした違いで1つのアプリケーションに膨大な数の亜種が存在するという状況もよく見かける。
レイヤー4をクラウド化していく場合には、まずそのような非競争領域について、アウトソーシングであったり、アプリケーションの利用であったりといった所を視野に入れてサービス化を進めていくべきだろう。
多くの先進的企業と同じように、非競争領域においては、競合ともバリューチェーンの一部を共有してでもコスト削減をはかりつつ、ブランド価値を高めていくような方針の転換がIT部にも求められているのだ。
次回は、具体的にアプリケーションのクラウド化について議論していきたい。
著者プロフィール
福田雅和(ふくたまさかず)
リアルコム株式会社事業開発ユニットマネージャー
リアルコム参画前は地理情報システムや、大規模オープン系システムの設計およびプロジェクトマネジメントを手がける。リアルコムにおいてはIT投資施策検討から、各種システムアーキテクチャの検討などに加え、マイクロソフト社基盤製品AskMe Enterpriseを含む複数自社製品のブランドマネージャーを歴任。各プロジェクトでマネジメントを手掛けながら、エンドユーザー要件をIT特性に合わせ最適化していくポジションで力を発揮。基盤技術から検索やRSSなどの要素技術にも精通しセミナーも多数行っている。
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