戦略および政策決定プロセスの怪:生き残れない経営(2/2 ページ)
奇々怪々の戦略/政策決定プロセスが少なくない。どんなプロセスで経営戦略や経営政策が決定されていたのだろうかと訝らざるを得ない現象が幾つか起きている。
さて、石井弘光が日本経済新聞で主張する「政策決定プロセス」の概略は、経済学など専門家になる訓練をしていない「素人」の政治家だけで、真の政策立案ができるはずがないとして、専門家の知を活用することを薦め、政策決定プロセスを次のように提案する。
I 政策の企画・立案(タスクフォースへの参加)→ II 政策形成の推進役(政治任用)→ III 国会での審議(参考人、公述人) →IV 政策発動
IからIIIまで専門家が関与し、IVで政治家、官僚の出番とする。米国ではブルッキングス研究所やアメリカン・エンタープライズ研究所などに人材がいて、政党の政策ブレーンとして貢献する。日本でも政策形成プロフェッショナルを育成するべきと、石井は主張する。
企業経営の世界でも同じことが言える。米国企業では日本企業で多く見られるように、部下から集めた戦略や政策をそのまま打ち出すような発想の貧相な経営者などほとんどいない。
日本企業においても、経営戦略/政策決定プロセスを明確にすべきである。その一案として、石井提案に倣って提案すると(至極当たり前のプロセスなのだが)、
- I 戦略企画・立案(専門家であるラインメンバー中心)
- II 戦略案の練り上げ(社内関連部門、社外専門家が加わる)
- III 社内での議論(トップ方針を反映、経営陣が加わり徹底議論)
- IV 戦略発動
現在、企業のほとんどではII〜IIIが省略され、IからIVに飛んでいる。IIの省略は、例えば設計戦略にコストが、あるいは製造戦略に効率が重要視される余り、品質概念が欠落する結果をもたらすなどの恐れを生む。一方、IIをプロセスに組み込むには多少の出費を伴うだろうが、止むを得ないし、必要経費でもある。この戦略/政策決定プロセスは当たり前のことなのだが、当たり前のことを主張しなければならないほど現実は深刻だ。
このプロセスを決定すること、該当部署に強烈な権限を与えること(例えば、上記例の某中堅企業の品質保証部門に与えられている権限のように)が、トップの果たすべき最初にして最重要の機能である。
余話になるが、こう考えてくると、「トップは技術系から必ず任用する」という伝統がいかに狭い考えであるかが分かってくるのも1つの収穫だ。戦略決定プロセスの貧弱が「トップは技術屋」という発想を生む。
著者プロフィール
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 永遠のパラドックス「今どきの若者は……」に決着を
「今どきの若者は何を考えているか分からない」というのは、いつの時代も語られる。だが嘆く前に教育するのが経営者の義務である。 - トップにもの言えぬ社員――かつての軍部とよく似た会社
戦時中の日本海軍に関するドキュメンタリーを見ていて気が付いたことがある。それは、現在の企業に通じる事象があまりにも多かったことだ。 - 密室商法の現場に潜入、そこから学んだこと
駅前を歩いていたら主婦らを相手取ったたたき売りが行われていた。これはと思い店の中に入ってみると……。 - 辞めたホステスを部下に呼び出させる ヒラメ部長の愚行
にわかに信じがたいことだが、世の中には次々と愚かな行動をとる経営幹部が多数存在するのだ。まったく呆れ返ってしまう。 - 課題の本質が見えない経営陣――接待に明け暮れ給料払えず
企業が抱える課題を明確に理解せずに、見当違いな行動を取るトップがいるとは嘆かわしいことだ。彼ら自身が変わらない限り、その企業に未来はない。 - 「居眠り社長」が連絡会議で聞きたかったこと
ITベンダーとのやりとりの中で一番大切なのは、ユーザー企業ともども適度な緊張感を持って導入に臨むことだ。 - そもそも何かがおかしい――役員が社内で長時間PC麻雀
Web2.0、はたまた3.0という時代に社内のインターネットによる情報収集を禁止している企業が、まだまだある。禁止か開放か、時代錯誤さえ感じるテーマから見えてくるものは、やはり企業風土の持つ重みだ。 - 生き残れない経営:派遣・請負切りはドンドンやれ!
派遣社員や請負社員への依存体質を抜本的に見直すべきだと気付いた企業こそが未来を先取りできる。今こそ経営改革のチャンスなのだ。 - 生き残れない経営:「赤字を消すために人殺し以外は何でもやれ!」――経営現場にはびこる勘違い
アメリカから入ってきた成果至上主義が日本企業にまん延し、経営者やリーダーの号令の下、従業員は企業の理念を忘れ、利益に目を血走らせている。こうした企業が未来永劫生き残っていくのだろうか。