不毛な総論はもう結構、有効な方法論を示せ:生き残れない経営(2/2 ページ)
「教育をするという企業風土」がB社の中にはない。口先で「部下を教育しろ」と叫ぶだけでなく、企業風土を根付かせるのがトップや経営者の責務である。
某中堅企業のトップは、たまたま社内を巡回中にある部門の男の机上にあった「クラウドコンピューティング入門書」を取り上げてペラペラとめくってみて、「おい、これ読み終わったら貸してくれよ」と言って、微笑みかけながらそこを去った。このトップは、時にこういう態度を見せた。社内には、いつも読書をしよう、新しい情報を取り入れようという雰囲気がみなぎっている。
「部下を教育しろ」……。筆者の大企業と中堅企業での経験である。中堅企業B社で役員に登用された人物が役員としての思考や行動方法が分からず、不適切な言動が目立ち、それが最後まで続くケースをしばしば見かける。大企業では日ごろ、担当者は幹部を、幹部は役員を見ながら育つ。もちろん直接指導や幹部研修会もあるが、日常業務の中で言わず語らずの先輩の業務の仕方や、先輩の背中を見ながら教育されていく。反面教師ももちろんいる。
そういう「教育をするという企業風土」がB社の中にはない。ただ口先で「部下を教育しろ」と叫ぶだけでなく、そういう企業風土を根付かせて行くのが、トップや経営者の責務である。それには当然時間がかかるが、意図して計画的に進めなければならない。(部下教育については『永遠のパラドックス「今時の若者は……」に決着を』を参照)
「収益を上げろ」「赤字は罪悪だ」……。幾つかの従来製品群やシステムの価格競争が厳しくなって収益確保が難しくなり、しかもいずれも市場の先細りが明らかな状況下で、中堅企業の情報機器メーカーC社のトップは収益悪化傾向におののき、「赤字陥落は罪悪だ」として、もっぱら市場価格下落へ対応するための「原価低減」の気合を入れ続けた。
今後の市場動向として、光通信回線の普及、デジタル化などを受けて、デジタルコンテンツの増加、ケーブルテレビ会社の吸収合併などが進められ、それに対してインターネットや顧客管理システムの統合などへ対応しなければならない。C社内関連部門は対応システムの開発に関する投資計画を立案して何度も申請したが、トップはまず原価低減ありきの方針で「赤字は罪悪だ」「原価低減をしろ」と叫び続け、人材投入も新規投資もしばらくの間認めなかった。C社は当然、収益構造の変化やシステム製品転換への対応に出遅れた。
これは、反面教師としての例である。
さて、具体的で有効な方法論、あるいは反面教師の例をいくつか列挙してきたが、これらに限らず、企業内で飛び交うそのほかのいろいろな指示についても、単なる総論を叫び続けることに終始していないか。トップ、経営者、管理者は大いに反省し、有効で具体的な方法論を提示できるように、学ぶ努力をしてもらいたいものだ。そうでなければ事態はいつまでも変わらない。
著者プロフィール
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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