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世界で戦う日本の中小企業――Alibabaが引き起こすパラダイムシフト石黒不二代の「ビジネス革新のヒントをつかめ」(2/2 ページ)

今回はB2Bのマーケットプレイスとして世界最大といわれるAlibaba.comの日本法人社長、香山氏に日本における戦略を聞きました。

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哲学が成功をリード

 香山さんは「アリババの最初の成功は、まさに針の穴を通すようなものだった」と言います。参入のタイミングの良さが事業を軌道に乗せたのです。まず、先進国がアリババを引っ張り、新興国が次の成長をリードし、そして、グローバル戦略の一環として日本法人ができたのです。

 もちろん、アリババの成功はタイミングだけではありません。もう1つの成功要素は、アリババの哲学と言ってもいいでしょう。2003年ローンチのタオバオは、当時、中国進出を目論んでいたeBayに対して徹底した無料作戦を展開しました。日本でも、ebayに対してYahooオークションが無料で対抗したのと同じ作戦です。そして、eBayを駆逐してオークションでトップとなり有料課金に転換したのです。投資家圧力に負け、この我慢が普通はできないのですが、アリババは、事業に対する将来ビジョンと信念を持ち、利用者に利益が出るまでじっくり待ちました。

 Alibaba.com上での日本企業向けサービスは、2009年7月に本格的にスタートしました。目的は、日本のサプライヤーを世界の市場にデビューさせることです。3〜5年かけて、世界の取引先を探せるプラットフォームに育てることが香山さんのコミットメントです。現在、日本サプライヤーの会員数は約4万。初期の会員と一緒に海外ビジネスを成功させるための要件を探っているところです。お互いがノウハウを吸収し、それを横展開する。サプライヤービジネスを成功させて、そこから拡大という中国と同じ展開を狙っています。Jack Maがそうだったように、ゆっくり育てるアリババの哲学がここにあります。

 業態はさまざまですが、新興諸国向けの中古車ディーラーや中古車のパーツ、中古の建設機械などがあります。サプライヤー開拓のために、1件1件ドアノックをして、英語の引き合いを英訳する手伝いをしたりしています。

 Jack Maの実践してきた顧客第一、従業員第一、パートナー第一という哲学を踏襲し、顧客が満足するまでは課金はしない。サプライヤーにも課金はしない。徹底的に満足するまで課金しないという方針です。プラットフォームビジネスでは、満足がなければ、サプライヤーが去り、サプライヤーが去ればバイヤーも去るからです。

 ECサイトには2つのタイプがあります。1つは、Amazon.comのようにサプライヤーが表に出てこないビジネスモデル。供給者は実はたくさんいるけれど、消費者はすべての商品をAmazonから買っている感覚です。Amazonが在庫も見せ方もすべてコントロールをしています。もう1つは楽天モデル。楽天は決済システムやECのテンプレートを各店舗に提供するものの、消費者にはサプライヤーの顔が見えます。

 香山さんは、顔の見えるECにしたい、サプライヤーの熱気が感じられるプラットフォームを作りたいと言います。だから、ソフトバンクはアリババと提携の道を選んだということです。どちらのビジネスモデルが勝つかは分からないけれど、その熱気に賭けてみたいという熱意が創業の想いです。

 ソフトバンクやアリババのように海外アセットを持っている企業は日本にはありません。また、日本の中小企業はまだ世界を知りません。「世界の競争に勝つために学んだことを日本の中小企業や個人事業主に学んでもらうのがアリババの使命」と香山さんは話します。縮小する内需に頼らず、クロスボーダーのB2BやB2Cの道を中小企業に開くことが日本の生きる道、コケの一年と覚悟して、中小企業や個人事業主と働くつもりです。

 アリババグループにとっての次の成長は、より高い品質のサプライヤーを囲い込むことによって実現します。だから、技術力を持つ中小企業がひしめいている日本市場の開拓を非常に重視しているのです。今度も需要と供給がマッチしていると言えそうです。

著者プロフィール

石黒不二代(いしぐろ ふじよ)

ネットイヤーグループ株式会社代表取締役社長 兼 CEO

ブラザー工業、外資系企業を経て、スタンフォード大学にてMBA取得。シリコンバレーにてハイテク系コンサルティング会社を設立、日米間の技術移転などに従事。2000年よりネットイヤーグループ代表取締役として、大企業を中心に、事業の本質的な課題を解決するためWebを中核に据えたマーケティングを支援し独自のブランドを確立。日経情報ストラテジー連載コラム「石黒不二代のCIOは眠れない」など著書や寄稿多数。経済産業省 IT経営戦略会議委員に就任。



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