開発手法が一味違う、奥深きゲームソフト業界を攻略する――コーエーテクモの松原社長:石黒不二代の「ビジネス革新のヒントをつかめ」(3/3 ページ)
コーエーとテクモが経営統合したのが2009年の4月、松原健二社長は新たに組織再編をし、めまぐるしく変わる市場環境に挑む。
スマートフォンはコーエーテクモにとってタフな市場
スマートフォンはタフな市場です。コーエーテクモにとって、最も大きなハードルは価格です。パッケージゲームは、5000〜7000円という価格帯が主流ですが、スマートフォンは従量課金か数百円という価格。勝敗が決まるのはビジネスモデルでなく、完全にコンテンツです。
コーエーテクモが得意とするゲームソフトは、100人の市場で10人が5000円を払ってくれるというものです。ARPU(Average revenue per user)の何%がPaid Customerになるかということが問題になり、また、ソーシャルゲームにおいては、コアなゲームでARPUが飛びぬけて高いものや、長続きするかが問題になります。
しかし、スマートフォン市場では、アクティブユーザーをどう続けさせるかよりも、潜在ユーザーをどれだけ新規ユーザーにして、ARPUをあげるかが問題となるでしょう。スマートフォンなどコミュニティー要素があるがローエンドなマーケットでは、100人の市場で30人か50人が、数百円を払うことを狙わないといけません。コーエーテクモにとっては、新市場といっても過言ではない、しかし、オンラインゲームには実績があり、0からのスタートではないことも確かです。
スマートフォン対応はまだ数タイトルです。いずれも既存ソフトを活用して開発しています。これからは、スマートフォン専用のアプリの制作にもかかりますが、パッケージ市場と全く異なるために、違うアプローチが必要です。パッケージソフトは、例えば、5万本を出荷すると、それが数億円の売上高をもたらします。高くて1000円のスマートフォンアプリが同様に売れても5000万円ほどですから、かけられるコストには大きな隔たりがあり、同じ作り方はできない。作り手は自然にパッケージ開発に興味が向いてしまうものです。
パッケージと海外が鍵
日本のコアゲーマー市場はほぼフラットで、今後は少子化で自然減が見込まれています。一方、欧米のゲーム機市場は、10年前の倍以上になっているのです。
コーエーテクモの市場戦略は海外に向いています。市場は新しいタイトルを求めています。簡単な操作で難しいことができるタイトルです。既存シリーズは続編を出すものの、それだけで会社の成長は期待できません。新しいタイトルのための投資をしていくつもりです。
要はプロダクトポートフォリオ
松原さんは最後に、こう語ってくれました。今後、ウェブがもっと発達すると、お客さまにさらにメリットが出てきて、たくさんのアーカイブにアクセスできるようになります。新しいゲームを楽しむと同時に、古いゲームをする人も増える。しかも価格は安いので、実はライバルは他社ゲームではなく、自社の古いタイトルかもしれません。
しかし、そういう時期を乗り越えて、新しいタイトルに投資しなければ、会社の将来はありません。スマートフォンも作り方は違うが、投資が必要な分野です。パッケージは相変らずコーエーテクモのコアプロダクトで、海外への積極的な展開を仕掛けるつもりです。要はプロダクトポートフォリオなのです。
会社として、統合は初めての経験で、外にも中にも成果を見せるのは簡単なことではありません。株主は早く結果を出せと言うが、思ったより時間がかかると考えています。両社は、ゲームづくりにおいても違う言葉を使うように、文化も違います。社員が納得しないと統合はすすみません。わたしの役割は、ここを目指すということを理屈の上で分からせること、それが頭に入れば、自然と統合は進んでいくでしょう。
著者プロフィール
石黒不二代(いしぐろ ふじよ)
ネットイヤーグループ株式会社代表取締役社長 兼 CEO
ブラザー工業、外資系企業を経て、スタンフォード大学にてMBA取得。シリコンバレーにてハイテク系コンサルティング会社を設立、日米間の技術移転などに従事。2000年よりネットイヤーグループ代表取締役として、大企業を中心に、事業の本質的な課題を解決するためWebを中核に据えたマーケティングを支援し独自のブランドを確立。日経情報ストラテジー連載コラム「石黒不二代のCIOは眠れない」など著書や寄稿多数。経済産業省 IT経営戦略会議委員に就任。
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