組織外の情報こそ必要なのに内部情報にこだわる経営者:生き残れない経営(4/4 ページ)
某中堅企業から「いかに顧客を創造して行くか」をテーマにコンサルティングを依頼され、社内意見の聴取を行ったとき、多くの管理者が意外な不満を口にした。
1.まず、経営者自ら第一線の現場に出掛けること、2.そして常に耳触りの良くない情報を求める姿勢を持つことだ。参考になる例が幾つかある。
電気メーカーの販社会や業界の集まりがあると、大メーカーは営業担当副社長か役員が出席する。しかし、N社とP社はトップが必ず出席する。他のトップや経営者が早めに会場を退出するのに、両社のトップは必ず最後まで残る。特にP社社長は、何百人もの出席者が流れ解散をし、数人しか残っていない最後の最後までいる。
これでは、さぞ多くの有意義な情報が彼の耳に入っていることだろう。早めに退場する経営者は、自宅へ辿り着いてくつろぐか、他の会合に出かけるかだろうが、数少ない外部情報収集の絶好のチャンスに、早く帰宅してくつろぐこともなければ、掛け持ち会合を設定することもなかろう。
もう一つの例だが、トップ始め経営幹部が、顧客を訪問することがある。しかし支店では、日頃関係の良い顧客や、耳触りの悪い情報を口にしない顧客を選んで、同行する。経営幹部は、居心地のよさを感じて、満足して本社に戻る。しかし、X社のトップや経営陣は、自分で訪問客を指定し、どこを訪ねても「わたしは、耳触りの良くない情報を聞きに参りました。それはお互いの企業を良くしたいからです。企業を良くするための悪い情報をお聞かせ下さい」と頼んで歩いた。注文が減る傾向にある顧客、重要案件を失注した顧客、取引のない顧客などへ、支店は幹部を連れ歩かざるを得ない。
ドラッカーの主張する「外部情報」を得るには、情報リテラートを高めたり、外部情報を取り入れて加工したりする手法やシステム構築が必要なのだろうが、何よりもまず「トップの姿勢」ありきである。
著者プロフィール
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 日本のCEOは状況を正しくみている? いや、ずれているだけではないか
- 「強い会社の秘訣」は「弱い日本の秘訣」の構図を見抜け
- 高校野球女子マネジャーにも劣る経営者たち
- 不毛な総論はもう結構、有効な方法論を示せ
「教育をするという企業風土」がB社の中にはない。口先で「部下を教育しろ」と叫ぶだけでなく、企業風土を根付かせるのがトップや経営者の責務である。 - 顧客第一なんて、企業が本当に考えられるのか
営利を目的とする企業が、果たしてすべてに優先して「顧客第一」を考えられるのか。本音の議論をしてみたい。 - 戦略および政策決定プロセスの怪
奇々怪々の戦略/政策決定プロセスが少なくない。どんなプロセスで経営戦略や経営政策が決定されていたのだろうかと訝らざるを得ない現象が幾つか起きている。 - 永遠のパラドックス「今どきの若者は……」に決着を
「今どきの若者は何を考えているか分からない」というのは、いつの時代も語られる。だが嘆く前に教育するのが経営者の義務である。 - トップにもの言えぬ社員――かつての軍部とよく似た会社
戦時中の日本海軍に関するドキュメンタリーを見ていて気が付いたことがある。それは、現在の企業に通じる事象があまりにも多かったことだ。 - 密室商法の現場に潜入、そこから学んだこと
駅前を歩いていたら主婦らを相手取ったたたき売りが行われていた。これはと思い店の中に入ってみると……。 - 辞めたホステスを部下に呼び出させる ヒラメ部長の愚行
にわかに信じがたいことだが、世の中には次々と愚かな行動をとる経営幹部が多数存在するのだ。まったく呆れ返ってしまう。 - 課題の本質が見えない経営陣――接待に明け暮れ給料払えず
企業が抱える課題を明確に理解せずに、見当違いな行動を取るトップがいるとは嘆かわしいことだ。彼ら自身が変わらない限り、その企業に未来はない。 - 「居眠り社長」が連絡会議で聞きたかったこと
ITベンダーとのやりとりの中で一番大切なのは、ユーザー企業ともども適度な緊張感を持って導入に臨むことだ。 - そもそも何かがおかしい――役員が社内で長時間PC麻雀
Web2.0、はたまた3.0という時代に社内のインターネットによる情報収集を禁止している企業が、まだまだある。禁止か開放か、時代錯誤さえ感じるテーマから見えてくるものは、やはり企業風土の持つ重みだ。 - 生き残れない経営:派遣・請負切りはドンドンやれ!
派遣社員や請負社員への依存体質を抜本的に見直すべきだと気付いた企業こそが未来を先取りできる。今こそ経営改革のチャンスなのだ。 - 生き残れない経営:「赤字を消すために人殺し以外は何でもやれ!」――経営現場にはびこる勘違い
アメリカから入ってきた成果至上主義が日本企業にまん延し、経営者やリーダーの号令の下、従業員は企業の理念を忘れ、利益に目を血走らせている。こうした企業が未来永劫生き残っていくのだろうか。