ワインを知り、経営戦略を知る――「葡萄酒の戦略」:経営のヒントになる1冊
各国ワインの戦略モデルなどについて、経営コンサルタントがビジネス戦略の視点から多面的に考察していく。
ワインの知識を深めながら、経営戦略の真髄を学べる――そんな“お得な”1冊が本書である。
ワインに関する書籍は、これまでも数多く世の中に送り出されてきた。ワインの歴史を紹介した本や、テイスティングの仕方や楽しみ方を解説した本もある。一方、経営戦略について解説した書籍についても枚挙に暇がないのは言うまでもないだろう。
しかし、ワインを材料に戦略の本質を語った本は過去に類書がない。それゆえに新しい切り口の本であり、「ワインの蘊蓄を学びながら、マーケティングの醍醐味も味わえる」「意欲的で斬新な内容だ」(2010年10月30日「日本経済新聞」書評)など注目を集めている所以である。
本書はまず、初心者でも分かるように、ワインの基礎知識の解説から始まる。そこで鍵となるのが、「ワインの味を決める要因は何なのか」という問いだ。ワインの質を決定する3つの要因として、一般的に「ブドウ品種」「テロワール」「造り手」が挙げられるが、その中でも特に、伝統的に風土や天候といったワインの産地が味を決めるとする「テロワール主義」と、シャルドネやピノ・ノワールといったブドウの品種こそが味を決めるとする「セパージュ主義」が、せめぎ合ってきた歴史がある。
ワインの伝統国であるフランスやイタリアは、テロワール主義に則ってワイン造りを続けてきたのに対して、アメリカや第三世界といった新興国はセパージュ主義が根底にあると著者は分析する。非常に分かりやすい分類であり、日常的にワインを楽しむ上での参考(小ネタ)にもなる。
この両者の対立軸を土台にして、本書では「なぜワインは世界で飲まれるようになったのか」「後発のアメリカや第三世界のワインは、どんな差別化戦略をとってきたのか」などを解き明かしていく。例えば、オーストラリアによるしたたかなワイン拡販戦略や、山梨固有のブドウ品種「甲州」を武器に海外展開を目指す日本の取り組み、「オーパス・ワン」などを手掛ける米ロバート・モンダヴィ社のフランス進出失敗などは、企業の市場開拓戦略に大いに通じるものがある。
また、歴史を通して、ワインの価格を下げる「イノベーション」はどう起こったか、同じ品質のワインを再生産するはどのような「科学的手法」が取り入れられたのかなど、経営コンサルタントの著者だからこそ書ける深い分析が随所に散りばめられており、まるでミステリー小説を読んでいるかのようにのめり込んでいく。
まさにワイン愛好家にも、ビジネス戦略フリークにも、双方が堪能できる内容といえるだろう。
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