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円高でも負けない企業に伴大作「フクロウの眼差し」(3/3 ページ)

現在進行中の円高は95年のそれと現象面では似ているが、当時と現在とでは大きく違う。まず、世界の経済事情が明らかに異なっている。

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アブダビ原発受注失敗の教訓

 低廉で良質な労働力を背景に優秀な技術陣と適切な生産管理と厳しいコスト管理、厳格な品質管理技術を持って、世界市場で勝ち抜けたのは一昔前のビジネスモデルだ。今、求められているのは、優れたマーケティング能力である。その点で、UAE(アラブ首長国連邦)のアブダビ国営原子力エネルギー会社(Emirates Nuclear Energy Corporation:ENEC)が原子力発電設備導入を韓国のグループがGE-日立を代表とする日米連合、仏電力公社、Arevaのフランス連合に競り勝ち、契約総額400億ドルの受注を獲得した。

 韓国電力は現在国内に20基の原子力発電所を運営し、20年以上事故を起こしていない実績と価格が評価されたようだ。その一方、完全な国産化には至っておらず、原子力発電所の主要な部品は米Westinghouseから提供を受けることになりそうだ。つまり、東芝は労せずして、ビジネスを獲得したことになる。

 日本政府は鉄道や原発のようなインフラに関連した産業の輸出を奨励している。ヴィエトナムの原発、ロス・ラスベガス間の鉄道新設等世界にはさまざまなプロジェクトがあり、それを対象としている。

 しかし、韓国は高速鉄道を早くも中国に輸出し、その中国も南米等への輸出を狙っている。これらから得られる教訓は、自らが蓄積したという技術やノーハウはこれから導入しようとする国にとって、それ程魅力的ではないという事を示している。

 彼らにとって最も重要なのはコストであり、スピードだ。台湾の新幹線輸出で露呈したように50年間大きな事故もなく、提示運行を守る日本の新幹線システムは非常に優れている。しかし、その運行を支えているのはさまざまな技術の組み合わせだ。大事なのはそれぞれの技術が明確に他と切り離され、コンポーネント化されていなければならない。

 彼らは車両はここ、鉄道建設はここ、運行システムはここと分けて発注したがる。それへの対応が出来ないようだと、彼等のニーズには答えられない。

 UMEの原発輸出失敗はその点で大きな教訓となった。日本連合は最後に残ったフランスと韓国の一騎打ちを前に早々と消えてしまったが、東芝はウエスティングハウスを傘下に持っていたことで韓国が受注しても主要部分を受注する漁夫の利を得たことになる。

 システムとして販売するというのを日本は苦手にしている。つまり、システム全体の受注は今後もかなり困難だと予想される。その一方、日本のデバイスビジネスが相変わらず強みを発揮することに変わりはないだろう。ただ、単なる部品屋では日本という国はもたない。もう少し上位のレベルまで引き上げて「ユニット」あるいは「コンポーネント」としてビジネス展開をできるようになる事が求められている。それを成し遂げた企業だけが、円高に象徴される世界的な大きな構造変化を「勝ち抜ける企業」となるのだ。

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