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日本政府も熱視線、アジア新興国市場の成長力女流コンサルタント、アジアを歩く(5/5 ページ)

アジア新興国に対しては、日本政府や行政機関も熱い視線を注いでいる。民間企業とはとらえ方も異なるものの、日本の行政機関がアジア新興国進出をどのように考えているかを知っておくことは有効である。

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バングラデシュの“ネットワーク”

 戸田氏とのお話の中で、わたしが感じたキーワードは「ネットワーク」であった。バングラデシュは狭い国土の中で強固なネットワークが張り巡らされており、バングラデシュの人々はそのネットワークを大切にしている。1つの取り組みから生まれた成果が、この強固なネットワークを通じて全国に広がったり、あるいはより大きな動きを生み出したりする可能性は大きい。

 例えば、先日、発表された雪国まいたけの農業によるソーシャルビジネスは、同社の強い意志だけでなく、JICAが1985〜1995年に実施した農業大学院プロジェクト(IPSAプロジェクト)で培われたネットワークが基礎になって実現したと言える。

 農業大学院プロジェクトでは、九州大学が中心となって専門家を派遣し、これまでの間、強固なネットワークをJICAとともに築いてきた。その九州大学、グラミン・クリシ財団、雪国まいたけが合弁会社を設立し、新たなソーシャルビジネスを展開するのである。

 JICAの取り組みについても、多くのお話を伺ったが、やはりこの「ネットワーク」がキーワードだと感じた。JICAの支援は、現場に踏み込み、成果を出して示すということだけで終わってはならない。バングラデシュのネットワークを生かして、その成果をバングラデシュ国内に広く展開し、社会変革を起こしていこうという戸田氏の思いが、わたしにはひしひしと伝わってきた。

日本企業へのメッセージ

 情緒的な物言いだが、両名の話からは日本および日本企業への熱い思いが伝わってきた。バングラデシュという地で、日本や日本企業について熱く語る姿を見て、わたし自身も励まされた。以下、彼らの話を基に、わたしなりに解釈し、メッセージを抽出してみた。

1.新興国およびバングラデシュを見る

 近年、どの企業も掲げるのが「顧客志向」だが、日本国内の消費者だけでなく、進出先の新興国、進出先のバングラデシュを顧客としてとらえ、何が求められているかという点を改めて確認する必要がある。日本や日本企業ばかりを見ていては、新興国に進出しても十分な成果を挙げられない。そこにいる人々と社会を中心に据えて、経済活動や支援活動を見極めなければならない。

2.ライバルから学び、打ち勝つ

 バングラデシュのインフラ整備状況には問題が多い。他方で、欧米や中国、韓国企業が、日本企業に先んじて進出を果たしているということは、それらの問題を解消もしくは極小化しているということだ。彼らがどのように問題に対峙したのかを学び、それを日本企業流に再構成する必要がある。既に進出している外国企業をしのぐ戦略を描かなければならない。

3.リスクを可能性に変える

 海外進出を検討するには、正確かつ詳細な情報やデータが必要となるが、バングラデシュにはそれがない。そのリスクをビジネスの可能性ととらえ、取り組む手段を考えれば、新たな形が見えてくる。

 例えば、ソーシャルビジネスとしてリサーチを進めることはできないか。インフラ整備とITビジネス、ITビジネスと教育を結びつけることはできないか。リスクを見て腰を引くのではなく、リスクを可能性として再考し、新たなモデルを作り出すことも必要である。

4.国を活用する

 JETRO、JICAの両機構は、長年にわたって、バングラデシュとの関係を持ち、強固なネットワークの中に入って活動を行っている。日本企業は、大小を問わず、こうした国の行政機関を活用し、バングラデシュやそのほか新興国への進出を円滑に、そして実り多きものにすべきだ。そして、相互に利益を得るための協働を実直に進めていくべきである。

著者プロフィール

辻 佳子(つじ よしこ)

デロイト トーマツ コンサルティング所属コンサルタント。システムエンジニアを経た後、アクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズにて、官公庁や製造業等の企業統合PMIに伴うBPR、大規模なアウトソーシング化/中国オフショア化のプロジェクトに従事。大連・上海・日本を行き来し、チームの運営・進行管理者としてブリッジ的な役割を担う。現在、デロイト トーマツ コンサルティング所属。中国+アジア途上国におけるビジネスのほか、IT、BPR、BPO/ITOの分野で活躍している。


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