【第2話】手法と枠組み:内山悟志の「IT人材育成物語」第2幕(2/2 ページ)
勉強会の第1期卒業生である浅賀からIT戦略委員会の運営について相談を受けた川口は、その課題を「改革塾」の検討テーマとしてメンバーに問うことにした。「改革塾」には、社内の各部門から10人の精鋭が集結しており、毎週課題を自分達で設定して、その分析や解決策の立案を行っている。
トーナメント式合意形成
石川が引き続きファシリテーターを買って出て、「IT戦略委員会の目的」と「IT戦略委員会に何を期待するか」について、まずは、それぞれのメンバーがカードにアイデアを書きだすこととなった。もちろん、「IT戦略委員会の目的」を次々と口頭で挙げてもらう通常のブレインストーミングでもいいのだが、それでは発散の幅が狭まることが多い。
最初のいくつかのアイデアに引っ張られてしまって、なかなか斬新なアイデアが出てこないということがあるためだ。今回のように行き詰った状態の打開策を見つけ出すためには、ゼロベースで幅広い視点からアイデアを出すためには、個々人でまず発散するというのが有効な手法となる。石川もそのあたりを心得ているようだ。
石川は、発散した多数のアイデアを収束する手法として「トーナメント式合意形成」を使おうと提案した。トーナメント式合意形成とは、川口が考案した収束の技法で、その名の通りトーナメント(勝ち抜き)方式で、より良いと思われるアイデアを選別しながら、最終的に1つの案を参加者全員が導き出していく方法である。
命題に対して、最初は1人でその解を考える。その後、2人がそれぞれの解を持ち寄り、どちらがより良い解であるかを話し合い、1つの解を導き出す。その際、どちらか一方の意見をそのまま採用しても良いし、双方の意見を融合した解を合意の上で作り出しても良い。
最初に討議した者どうしは2人のチームとなって、次に、2人対2人で同様の選別または合意を行う。その際、各チームの1人が調整役(双方の意見を公平な立場で汲み取る役)、もう1人が説得役(自分のチームの意見を主張する役)を演じる。これを、4人対4人、8人対8人という具合に繰り返すことで、最終的に1つの解に収束させていく。それぞれのチームでは、1名が調整役となり、そのほかの者はすべて説得役となる。
トーナメント式合意形成の良い点は、全員の参画意識が醸成されること、選別ではなく調整によって合意に導けること、そして、何より楽しく行えるため議論が活性化することだ。
まず、全員が少なくとも一度は自分のアイデアを出したという事実を作ることができる。後から「自分は実はそう思っていない」「自分の知らないところで勝手に決められた」という言い逃れを封じ込めることができる。また、誰もが、より良い解を求めて話し合い、調整しながら合意を形成することができ、常に、複数案の中から選択することで、反対意見のない批判を避けることができるのである。こうした「IT戦略委員会の目的」は絞り込まれていった。
著者プロフィール
内山悟志(うちやま さとし)
株式会社アイ・ティ・アール(ITR) 代表取締役/プリンシパル・アナリスト
大手外資系企業の情報システム部門、データクエスト・ジャパン株式会社のシニア・アナリストを経て、1994年、情報技術研究所(現ITR)を設立し代表取締役に就任。ガートナーグループ・ジャパン・リサーチ・センター代表を兼務する。現在は、IT戦略、IT投資、IT組織運営などの分野を専門とするアナリストとして活動。近著は「名前だけのITコンサルなんていらない」(翔泳社)、「日本版SOX法 IT統制実践法」(SRC)、そのほか寄稿記事、講演など多数。
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