3つのフェーズで企業に浸透するスマート端末:iPadで躍動する職場(2/2 ページ)
発売以来、相次いで企業での導入が紹介されるなど、いよいよビジネスシーンにおいても本格的な普及期に差し掛かったiPad。企業がその利用を推し進める上で、注意すべき点は何か。
社内システム連携まで行う企業はまだ少数
スマートデバイスを企業は現在、どのように活用しているのか。その点について、iPhoneとiPadそれぞれの利用シーンを見ると、前者はその携帯性の高さからメール確認などの用途で屋外を中心に用いられ、後者はその視認性の高さから、プレゼンを目的にショールームなど屋内で利用されるケースが多いという。
利用の進展度では、以下の3つのフェーズに分類できると手塚氏は話す。最初のフェーズではPIM(Personal Information Manager)連携が主たる目的となる。そのために、メールやカレンダー、アドレス帳などスマートデバイスの基本機能を利用した「Microsoft Exchange」や「IBM Lotus Notes」との連携や、Google Appsの利用に乗り出すケースが多いという。
次のフェーズでの狙いはSFA(営業支援システム)やCRM(顧客情報管理)の強化である。そのため、サイボウズのグループウェア製品や、コンテンツの配信基盤としてインフォテリアの「Handbook」などが一般的に用いられるほか、営業支援を目的にしたプレゼンツールの開発に乗り出す企業も着実に増えつつあるようだ。
最終フェーズでは、業務の抜本的な効率化や高度化のため、社内システム連携に取り組むことになるわけだ。
ただし、現状では最終フェーズにまで到達した企業は極めて少数なのが実情だ。その理由として手塚氏が指摘するのが、情報システム部門がスマートデバイスに対するセキュリティ面の知識をまだ十分には修得していない点である。
「ノートPCと同等のセキュリティの確保はスマートデバイスでも可能なものの、スマートデバイスならではの“守り方”にはまだ十分に精通しているとは言い難い。社内システムとの連携した場合には、機密情報にアクセスするケースもあり、そのことを不安視する情シス部門は多い」(手塚氏)
利用促進で鍵を握るのはパートナー選び
とはいえ、最終フェーズに対する企業の関心は決して低くはないようだ。あるアパレルメーカーは、バックヤードの在庫を店頭で接客スタッフが確認できるよう、リアルタイム在庫システムと連携したiPhoneアプリを開発し、既に運用を開始している。接客が必要な業態で店舗に在庫を抱える企業は数多く、同様の仕組みを整えれば業務の抜本的な効率化を見込むことができる。
ニーズは確実にあるものの、今はそれを具現化するための手段が周知されていないのである。手塚氏は「開発にあたり、パッケージとスクラッチ、ネイティブアプリとWebアプリのどちらを選択するか。セキュリティのガイドラインをどう策定するか。ネットワークのセキュリティをいかに担保するか。これらの点が明らかになるにつれ、最終フェーズに乗り出す企業は確実に増えるはず」と見ている。
スマートデバイスと社内システムとの連携実現に向け、鍵となるのが、適切な開発パートナー選びであることは言うまでもない。とはいえ、スマートデバイスに対する知識が豊富な企業が少ない中で、果たして何を基準にパートナーを選定すべきなのか。そこで手塚氏が重視すべきものとして強調するのが過去の開発実績である。
Objective-Cの技術者であればiPhone/iPadアプリを、Javaの技術者であればAndroidアプリを作ることは、理屈の上は不可能ではない。とはいえ、「アプリケーションの使い勝手を高めるためには、マルチタッチのインタフェースに関するノウハウや、日々の運用を視野に入れた設計能力も必須」と手塚氏は説明する。それらのスキルを推し量る上で、具体的にどんな実績をどれほど積んできたのかは、極めて重要な指針と言えるわけだ。
例えば、ジェナでは企画から設計、デザイン、製造までの開発プロセスのうち、主に設計とデザインを受け持つことで、これまで約50社から開発業務を受託してきた。設計とデザインに注力する理由について、この部分こそアプリケーションの品質を大きく左右すると手塚氏は力を込める。
「製造プロセスは、企業がやりたいことを見極め、社内システム連携やAR、ゲームなどに強みを持つ外部のパートナーと手を組み、品質確認をしつつ実施する。この手法であれば、多様な企業のニーズに対して柔軟に応えられる」(手塚氏)
来年には新規出荷台数でスマートフォンが過半数
iPhoneやiPadの人気を追い風に、今後、スマートデバイス向けのアプリケーションを開発するベンダー企業が相次ぎ、開発単価は下落すると推測される。だが、ジェナのように設計、デザインに強みがあれば、オフショア開発を推し進めることで単価下落にも対応できる。末永くパートナーと付き合う上で、パートナーがどこに強みを持つのかも理解しておくことが理想といえよう。
国内市場を見ると、2012年には新規出荷台数で、2015年には契約回線数でスマートフォンが従来のモバイル端末の過半数を超えると予想される。今後、スマートデバイスの利用がさらに拡大することは間違いない。アプリケーションの開発手法も日々、進歩しており、Objective-CやJavaによるネイティブアプリと、HTML5を用いたWebアプリの混在環境で、両者とも変わらぬ使い勝手を実現するハイブリッドアプリの開発も「徐々にだが緒につきつつある」(手塚氏)のだ。
そのメリットを最大限に引き出すための、企業間の知恵の絞り合いが始まろうとしている。
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