非常時にこそ差がでる本当のリーダーの決断力:『坂の上の雲』から学ぶビジネスの要諦(2/2 ページ)
決断とは不確定要素がある中で下すもの。非常時においては、社会的責任を踏まえた大きな決断も必要となる。「覚悟に勝る決断なし」を心がけたいものだ。
企業の意思決定
企業は、多くの場合、不確定要素やジレンマ抱えた中で意思決定を行うのが常である。必ずこうなるということが分かっているのなら、単なる遂行であり、意思決定とは言わない。
確かに、決断にはリスクを伴う。その時点であるだけの情報を集め、リスクの大きさを推測し、メリットとデメリットなどを比較し、最終的に誰かが決断しなければならない。
また、自分の保身のみが大切という意思決定ではいけない。その反対の企業としての責務も考えに入れなければいけない。
決めないこと、すなわち先送りすることは、容易である。多くの場合、失敗したくないという保身からくる。当たり前ではあるが、決めればよくも悪くも結果がでるからだ。
極端に言うと、平時のリーダーは誰でもできる。非常時こそ本当のリーダーの出番である。冷静沈着でいなければいけないが、同時に事の重要性や社会的意義も考え、大胆な意思決定を下す必要がある。
わたしは、国鉄からJRになって、従業員のサービスが驚くほど良くなったと評価していたが、今回の情けない姿に大変落胆した。重要事項の意思決定など本質は国鉄時代と何も変わっていないのだろうか。
「覚悟に勝る決断なし」
さて、決断についても「坂の上の雲」から学ぶことができる。
1898年(明治31年)、日露戦争を目前に、日本海軍はひとつの岐路に立たされていた。
近代化を急ぐ日本は朝鮮半島を自国の勢力下に置くことを望み、1895年、日清戦争に勝利することで中国の朝鮮半島への影響力を排除した。しかし、ロシア、フランス、ドイツからのいわゆる三国干渉によって阻まれる。
その後、ロシアは1900年清国で起きた義和団事変の混乱に乗じ、満州に進出した。不凍港を求めて南下を図るロシアが日本の緊張を高めていた。
そんな中、海軍では軍備を増強するために、主力艦(戦艦三笠)を買うか否かという意思決定をしなければいけなかった。日本海軍は主力戦艦をイギリスに発注したいのだが、予算がすでに尽きていた。
結局、戦艦三笠は当時の海軍大臣山本権兵衛と内務大臣西郷従道の決断で生まれた。
「それは山本サン、買わねばいけません。だから、予算を流用するのです。むろん、違憲です。しかしもし議会に追及されてゆるしてくれなんだら、ああたと私とふたり二重橋の前まで出かけて行って腹を切りましょう。二人が死んで主力艦ができればそれで結構です」三笠は、この西郷の決断でできた。
(『坂の上の雲』司馬遼太郎、文春文庫、3巻64頁)
まさにトップの決断である。間違ったら自分が責任を取るという覚悟ができているから決断ができるのである。
社長の仕事は決断することであるといわれるように、大きな決断はトップがしなければならない。われわれの周りにも小さな覚悟を持って決断すべきことがたくさんあるのではないだろうか。
著者プロフィール
古川裕倫
株式会社多久案代表、日本駐車場開発株式会社 社外取締役
1954年生まれ。早稲田大学商学部卒業。1977年三井物産入社(エネルギー本部、情報産業本部、業務本部投資総括室)。その間、ロサンゼルス、ニューヨークで通算10年間勤務。2000年株式会社ホリプロ入社、取締役執
行役員。2007年株式会社リンクステーション副社長。「先人・先輩の教えを後世に順送りする」ことを信条とし、無料勉強会「世田谷ビジネス塾」を開催している。書著に「他社から引き抜かれる社員になれ」(ファーストプレス)、「バカ上司その傾向と対策」(集英社新書)、「女性が職場で損する理由」(扶桑社新書)、
「仕事の大切なことは『坂の上の雲』が教えてくれた」(三笠書房)、「あたりまえだけどなかなかできない
51歳からのルール」(明日香出版)、「課長のノート」(かんき出版)、他多数。古川ひろのりの公式ウエブサイト。
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