【第1回】“チームワーク後進国”になってしまった日本:チームワーク 2.0(2/2 ページ)
本連載は「チームワーク」をテーマに、新しい組織マネジメントの仕組みとその可能性を検討していきます。
日本はチームワーク後進国
守島教授はまた、日本は新しい形のチームワークに対応できず、今では“チームワーク後進国”になってしまったと警告しています。筆者は、日本のチームワークが次の段階にステップアップする時期に来ている背景に、業務の高度化、情報化、グローバル化の3つがあると考えます。
業務の高度化によって、ある目的を達成するために、より多様で深い専門知識を動員することが必要になりました。例えば、新しい価値を持つ製品を設計するために、技術開発、生産、物流、マーケティングで深い知識と長い経験をもつ専門家たちが、常時コミュニケーションを続けることが求められます。しかもこれは、社内にとどまらず、契約会社、取引先、時には個人の専門家にまで及びます。
次に、情報化の進展によって、情報が瞬時に世界中に行き渡るようになったため、ビジネスの環境があっという間に変わってしまうことです。企業組織は、この変化に対応するために、これまでにない柔軟性と迅速性が求められるのに対し、従来の機能別組織では、報告や指示を仰ぐのに時間がかかってしまいます。
最後に、ビジネスのグローバル化によって、異なる言語、異なる文化のメンバーが協力して、ひとつの目的を達成する必要性が強まったことです。たとえ言語だけを統一しても、人々が協力して仕事を進めるやり方がグローバル水準になっていなくては、良いチームワークは発揮できません。
チームワーク 2.0の導入効果
それでは、チームワーク2.0が、企業経営にどんなメリットをもたらすのか、機能別組織と照らしながら、いくつかの例を挙げてみましょう。
(1)変化への対応
唯一のリーダーを除いて、チームには組織階層がなくフラットです。これによって、チームが新しい状況に接したとき、その場で変化に対応できます。
(2)業務の効率化、高品質化
1つのビジネスを完了するとき、職能別の組織では、順番に話を進めていくのに対して、チームでは、メンバーが同時並行して、または高度に対話しながら進めます。その結果、問題や改善が迅速になり、効率化・高品質化を実現します。
(3)メンバーの成長
チームで仕事を行う過程では、メンバーはほかのメンバーの仕事ぶりを見る機会が増えます。また、チームの目的の中で、自分が行う仕事の位置付けを理解しやすくなります。このことは、メンバーが広い視野で知識を修得し、理解を深める機会につながります。
(4)イノベーションや画期的な刷新
複数の専門性を持ったメンバーが、横で仕事をするわけですから、問題を解決する方法が、画期的であっても、すぐに意思決定できます。一方、職能別の組織の場合、特定のビジネスのために、画期的な刷新をすることは難しくなります。IDEOに、世界で最もイノベーティブなショッピングカートを作らせるという企画がありました。そのチームのメンバーには、工学、マーケティング、経営学、言語学、心理学、医学といった異なる分野の専門家がいました。
(5)モチベーション
詳細に細分化された機能別組織では、自分のやった仕事ぶりが、会社の中でどれくらい貢献したかを理解しづらくなります。チーム制では、チームの結果がより身近になるため、それと自分の仕事ぶりの関連をつかみやすくなります。これによって、仕事のやりがいが増し、より良いものにしようとする動機付けになります。
チームワーク 2.0の負の面
このように、新しいチームワークには、多くのメリットがあります。一方で、人が集団で仕事することによるデメリットがあるのも事実です。代表的なものを1つ挙げてみましょう。
「よいチームは、1+1が3にも4にもなる」という表現を目にした読者も多いでしょう。しかし、期待とは裏腹に、多くの研究で、チームのパフォーマンスは、そのメンバーの最大のパフォーマンスの合計に満たないことが明らかになっています。残念ながら、1+1が2に届かないわけです。
例えば、5人で綱引きをするとします。事前に各々が単独で最大限に発揮できる力を測っておきます。5人が一緒になって綱を引いたとき、理論的には綱を引く力の最大は全員の力の合計になるはずですが、何回実験を重ねても、綱を引く力は合計に満たないのです。このような実験は、運動能力だけではなく、問題解決など知的な能力についても同様の結果が出ています。
なぜこのようになるのでしょうか。次回は、チームの負の面と、その原因について紹介します。
著者プロフィール
北原康富(きたはら やすとみ)
サイボウズ株式会社 シニアフェロー
早稲田大学 招聘研究員・非常勤講師
東京理科大学 非常勤講師
博士(学術)
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