貢献力の経営――企業経営の“新たなモノサシ”としての貢献力――NTTデータ 山下徹社長(2/2 ページ)
2011年9月16日、早稲田大学 井深大記念ホールで開催された「ELForum & ITmedia エグゼクティブ共催 エグゼクティブ フォーラム 働き方と企業経営の"新たなモノサシ"」の基調講演に、NTTデータの代表取締役社長、山下徹氏が登壇。「貢献力の経営」をテーマとした講演で、働き方と企業経営の「新たなモノサシ」としての貢献力を提言した。
(2)セクショナリズムの打破
これまでの企業では、組織や部門ごとにビジネスを推進する、いわゆるセクショナリズムが中心だった。しかし変化が激しい現在のビジネス環境においては、いかに組織や部門の枠を越えてビジネスを推進できるかが重要になってくる。
山下氏は、「セクショナリズムの打破に有効なのが貢献力である。これはわたし自身で気がついたというより、若い人たちを集めて実施した構造改革プロジェクトから教えられたものだ」と話す。
このプロジェクトでは、社内公募でアイデアを募り、その中から社内SNSが採用されている。山下氏は、「社内SNS的なものは何度もやってきたが成功したことがなかったので、今回もダメだろうと思っていた」と言う。
しかしふたを開けてみると、3カ月弱で400名以上が参加する社内SNSに成長した。山下氏は、「この社内SNSが成功した理由は、大きく2つある。まずは実名制にしたこと、そして"公私混合"にしたことだ」と話している。山下氏が提唱する公私混合とは、仕事場で得た知識が、プライベートでの情報や経験などと混じり合って化学反応を起こすことだ。バラバラだった公と私がダイナミックに混合し、個人の知的創造力が最大限に発揮されるようになるのである。
「実名制にすることで、公私混合にしてもそれほどムダな書き込みはできず、かえって書き込みの質が向上した。またボランティアで始まった"ナレッジコンシェルジェ"と呼ばれるメーリングリストでは、問題を書き込むと、どうすれば解決できるかを誰かが必ず回答してくれる。これこそが貢献力である」(山下氏)
(3)貢献心は人間の本能
貢献心とは、犠牲的な精神ではなく、自分を満足させたい欲求であるという。「つまり、貢献心とは人間だけに与えられた本能といえる。この考えには、非常に共感できる」と山下氏は話す。
NTTデータの社内には、"かえる工房"と呼ばれるボランティアのデザインチームがある。このチームでは、会社の提案書やカタログなどに必要なロゴやデザインを依頼すると、ボランティアで作成してくれる。
これを社外の業者に依頼すると膨大な費用が掛かるため、コスト削減につながったという。山下氏は、「この取り組みは、犠牲的精神ではなく、自分たちの楽しみとして活動していることが成功の鍵である。そこで現在では、勤務時間の5%をかえる工房の作業に利用してもよいルールにしている」と話す。
貢献力の経営は有効か?
「ある企業が実施した社員満足度調査で、2004年度のNTTデータの満足度は3.32であり、満足領域である3.6にはほど遠い数字だった。しかし貢献力の経営を続けた結果、2009年度には3.65、2010年度には3.7を実現している」(山下氏)
2004年度のIT企業のトップとNTTデータには、満足度に大きな差があったが、その後の取り組みにより、2009年度にはNTTデータが2004年度のトップ企業を追い越した。「"貢献主義実践度"の高い組織では、社員満足度や成長感などが高い傾向にあります。また、"貢献主義文化度"の高い組織でも、社員満足度や成長感などが高い傾向にある」と山下氏。
最後に山下氏は、「NTTデータの貢献力の取り組みはまだ道半ばだが、成果の兆しを感じている。今後も、相互尊重・相互支援の組織文化醸成や、社員の満足度や成長の促進により、社員と会社の絆を強化することで、会社のパフォーマンスを向上させ、お客様からの評価をより一層向上させていきたいと考えている」と話し、講演を終えた。
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