【第2回】チームにはびこる「社会的手抜き」:チームワーク 2.0(2/2 ページ)
チームワークによって多くの効果が期待できる一方で、集団活動がチームにマイナスの作用を与える場合もあります。今回はその側面を見ていきましょう。
次に、チームメンバーの誰か一人が問題を解決したら、チームとしての仕事が終わるというタイプのタスクについて考えみましょう。例えば、プログラムのバグをチーム全員で探すような仕事です。このようなタイプを、「分離型タスク」といいます。分離型タスクでも、チームのマイナス効果が観測されます。ある研究では、数学の問題を被験者に別々に解いてもらい、次に、チームになって、チームとしての解答を1つ出してもらいます。驚くことに、チームの中に正解者がいたにもかかわらず、チームの解答が間違ってしまう現象が起こってしまうのです。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか。綱引きの場合、メンバーが最大の力を発揮するタイミングが合わない「調整の失敗」という問題があります。メンバー全員が同時に最大の力を出すことは難しいからです。しかし、それだけではなく、もう1つの理由として「社会的手抜き」という作用があるとされています。自分が一人でしなくてはならない場合には100の力が出せても、加算型タスクであれば80ぐらいに手を抜いても誰にも気付かれないと考えるわけです。
これを示す面白い実験があります。綱引きの実験で、1人の被験者を綱の先頭で引くように配置します。7人で綱を引くわけですが、2番以降の人たちは、一生懸命引いているような声やフリをしているだけで、実際には力を入れないようにします。この場合でも、被験者は一人で引いた時の75%しか力が出ませんでした。仲間がいるということを知っているだけで、かける力が少なくなってしまうという現象がみられたのです。
他人の意見に流されるというワナ
一方、ブレーンストーミングの場合、「発話の衝突」、「社会的手抜き」および「評価の心配」によって、チームの成果が下がるといわれています。ブレーンストーミングのような一堂に会する会議は、ある面で非効率なところがあります。それは、一度に一人の人しか発言できないからです。発話の衝突とは、自分にいいアイデアが浮かんだとき、ほかの人が発言していて、さらに次の人が発言するといったことが続くと、もう発言することをあきらめてしまうことです。社会的手抜きは、自分1人ぐらいアイデアを言わなくてもほかの人がたくさん話してくれるからいいやと考えてしまうことです評価の心配は、こんなアイデアを言ったらバカじゃないかと思われるのではと考え、発言を避けてしまうことです。
チームでのバグ探しの場合には、ほかの人や集団からの意見、圧力によって行動が変わってしまう「同調」という理由が挙げられます。ある実験を紹介しましょう。暗い部屋で数人に座ってもらい、投影される丸い形を見て、順にその色を答えてもらいます。最初は、明らかに緑色なのですが、一巡ごとに色を青に近づけていきます。実はこの中で被験者は1人で、残りの人たちはサクラです。サクラは、どの色を見ても、緑色と言います。実験を進めていくと、完全に青い色になっても被験者は緑と答えてしまいました。実に3人に1人の被験者が、誰が見ても青にもかかわらず、ほかの人に同調して間違った答えを言っています。
皆さんもこれまで会社や学校などの集団で、社会的手抜き、調整の失敗、発話の衝突、評価の心配、不必要な同調を経験したことがありませんか。
人がチームになって仕事をすると、こんなマイナス効果があるなら、チームワークは意味ないのではと思ってしまうかもしれません。しかし、紹介した実験はあくまでも実験室の中の話で、現実の仕事の場では、実験では取り除かれたさまざまな要素が存在します。
例えば、ブレーンストーミングを皆でやることは別の意味で有効です。意見を出し合って、その中から1つの選択をするという過程を共有することで、結果に対してチームメンバー一人一人が、よりモチベーションを持てるということもあるでしょう。面白いアイデアを聞いたり話したりすること自体が、楽しく、チームのソーシャルな関係をよくします。
次回以降は、チームワーク2.0におけるチームの定義や、これが有効に働くためのメンバーシップやリーダーシップについて紹介していきます。その中には、チームワークの中に潜むこマイナス原因の働きをできるだけ少なくすることによって、チームワークのメリットをより多く得られるようにしようとするアプローチが各所に含まれています。
著者プロフィール
北原康富(きたはら やすとみ)
サイボウズ株式会社 シニアフェロー
早稲田大学 招聘研究員・非常勤講師
東京理科大学 非常勤講師
博士(学術)
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