【第3回】既存組織の中にチームをどのように作るか:チームワーク 2.0(2/2 ページ)
最大の効果を得るためには集団によるマイナス面を補うチームマネジメントスキルを修得する必要がある。今回はその前提としてチームというものの定義を詳しく見ていく。
チームはイチかゼロということではない
チームワーク2.0の持つ条件がすべて備わっていないと、チームと呼べないかというと、そうではありません。これらの条件は、イチかゼロではなく、アナログ的な「度合い」です。多様性と相互依存性を例にとると、新しいプラントシステムを開発する新製品開発チームは、機械や電気などのエンジニアリング、工場の運用、物流、マーケティングなどの専門家から成り、高い多様性を持ちます。また、メンバーの仕事は、ほかのメンバーの仕事の成果に高く依存します。一方、電話で営業をするテレアポチームは、メンバーは同じ専門性を持ち、メンバー間の仕事の依存性はあまりありません。
チームに与えられる自治、すなわち自己裁量の度合いも、さまざまなレベルがあります。最も高い裁量を与えられたチームは、予算の自由な執行、メンバーの選出や勤務場所や勤務時間まで、チーム内で決められるでしょう。反対に、チームに与えられる裁量が小さいと、意思決定が必要なときには、その都度チームの所属する組織のマネジャーに決裁をもらう必要が生じます。
重要なことは、チームの条件がより強くなると、比例してチームの効果が多く生じるということです。そしてチームに与える条件の強弱は、組織の上位マネジャーや経営者によって、バルブを調節するようにコントロールすることができます。チームの成熟度や経験、チームに与える目標などに応じて、与える裁量を増減してやることができるわけです。このことは、伝統的な職能組織が、チームワーク2.0を徐々に取り入れることができるという、実務的な意味につながります。
次に、その具体的導入方法を紹介しましょう。
職能組織でもチームワーク2.0を段階的に導入
図2にあるように、職能組織の中にチームを作り、試行していく方法には2通りあります。
1. 特定目的部門チーム
ある期限と特定の目的を持った部門を設置し、別の部門から選抜したメンバーを配属します。この部門にチームワークの条件を与えることによって、チームワーク2.0の効果を引き出します。このようなチームの例として、新規事業開発部、新市場推進部などがあります。
2. 組織横断チーム
部門をまたがるチーム(タスクフォース)を作り、部門の社員が兼任で、そのチームの仕事をします。これは、ジョイントベンチャーなど、会社をまたがる場合もあります。
特定目的部門チームは専任なので、チームとしての結束力は高まり、その結果、高い目標にチャレンジする集中力を維持しやすくなります。しかし、チームの一体感が過剰になると、チームの外の組織との関係が難しくなる場合があります。ほかの部門からは、部門の1つなのに特権が与えられているということに不満が生じるかもしれません。また、チームが殻の中に閉じてしまい、孤立感が生じたり、反対に、内部ひいきや外部との敵対意識が生じるかもしれません。特定目的部門のリーダーは、チームがこのようなリスクを持っていることを十分理解した上で、リーダーシップスキルを発揮する必要があります。
一方、組織横断チームは、既存の組織の上にあるため、チームの発足が容易で、チームワークの試行には適しています。しかし、このチームのメンバーは、チームとしての立場と、部門代表としての立場の間で葛藤する場面に遭遇することがあります。一般的には、その際、メンバーは自分の所属する部門の代表としての行動になりがちです。その結果、チームの成果は総論的、あいまいなレベルにとどまってしまいます。これを避けるために組織のマネジャーは、チームの目標を明確にする、チームリーダーやメンバーに必要な権限を与える、メンバーのチームワークについての評価方法を明確にする、といったことをする必要があります。
職能組織の上位マネジャーや経営者にとって、チームワーク2.0を取り入れていくことは、なかなか困難があり、また勇気が必要でしょう。しかし、本稿で紹介したチームのメリットを得るためには、そのようなリスクにチャレンジしていただきたいと思います。最後に、一橋大学の守島基博教授の次の言葉で本稿をしめくくることにしましょう。
「チームは組織の永続的一部分ではなく、時間の限られた『賭け』である。資源と権限を与えて、チームに『勝手』に仕事をさせて、評価を行う」(「自律チーム型組織」 マンツ他著、守島監訳)
著者プロフィール
北原康富(きたはら やすとみ)
サイボウズ株式会社 シニアフェロー
早稲田大学 招聘研究員・非常勤講師
東京理科大学 非常勤講師
博士(学術)
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