不快感を持たれずに自分の意見を通す――アサーティブ:グローバル時代のスマートリーダー術――100人の経営層から(2/2 ページ)
日本人は言わないでも相手が分かるというがそれはまったく通用しない。黙っていると無能だと判断される。絶えずアピールし、価値観の違う人たちと闘うためには。
何かできることはありませんか?
あるとても有名な料理研究家に会う機会がありました。彼女はフランスでミシュランの3つ星を獲得している有名ホテルのレストランやその他のレストランで2年間働き、現在は日本に戻って活躍しています。
その有名ホテルレストランの厨房で働くことが決まったとき、彼女が行ったことがあります。シェフたちは、男性の白人ばかり。彼女はアジア人でましてや女性。誰も目をくれません。そのお店で働くことが決まった1日前に厨房に行き、キッチンのどこに何があるかをノートに描き、すべて暗記。また、見つけた名前のリストもすべて暗記し、出勤初日に備えました。
翌日初めて厨房に行った際、自分から手を差し伸べ、「Bonjour, C'est ○○.(こんにちは、○○です)」と挨拶して相手の名前を聞いていきました。相手の名前を聞いたら、必ず名前を呼ぶようにしました。そして毎日相手の名前を呼び、その後に必ず自分の名前を言うということを繰り返しました。「Bonjour, Pierre. C'est ○○.(こんにちは、ピエール。○○です。)」そのようにして自分の名前を覚えてもらったといいます。
一方で、仕事はじゃがいもの皮むきからスタートしたそうですが、あるシェフが「鍋がないか?」というと、すかさずそれを持っていきました。どこに何があるかを覚えていたので、できたのです。また、彼女は周りの人に「何かできることはありませんか」といつも聞いてまわりました。そうすると、「それならこれ頼む」と言われ、言われたことを確実に行い評価されるようになりました。自ら包丁研ぎ教室を開催し)日本の庖丁を研ぐ技術は素晴らしいそうです)、「みんなの包丁、といであげるわよ」と言って、教えながら信頼を勝ち取っていったといいます。
そんな地道な努力を積み重ね、彼女は数カ月後には調理を任されるようになったのです。自分の意見を聞いてもらうためには、「何かできることはありませんか」と自分から質問し、歩み寄り、語っていく、という努力が欠かせないのです。
自分の意見を言えることの大切さ
ライフネット生命の出口治明社長に会う機会があり、出口さんがロンドンにいた際にある英国人のブローカーから聞いた話について語ってくれました。
「英国の初等教育のポイントは2つ。人間はそれぞれ顔が違うように、考え方も違う、自分の考えをしっかり話せるように指導することがひとつ。もう1つは、そういう人たちが集まって社会を形づくるのだから、queue(並ぶこと、お互いに譲ること)を教えること」
グローバルな時代だからこそ自分の意見をしっかりと言い、一方で自分から何かができないか、と歩み寄り、対話をしていく――それが求められているように思います。
今回は「不快感を持たれずに自分の意見を通す―アサーティブ」ということに焦点を当てました。次回は、「対話を継続する」について話します。
著者プロフィール
林正愛(りんじょんえ)
BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチ、ファイナンシャルプランナー、英検1級、TOEIC955点。津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業。British Airwaysに入社し、客室乗務員として成田―ロンドン間を乗務。その後中央経済社にて経営、会計関連の書籍の編集に携わった後、日本経済新聞社に入社し、経営、経済関連の書籍の企画および編集を行う。2006年4月に退職し、「眠っている才能を呼び覚ませ」というミッションのもと、優秀な人たちが活躍する場を提供したいという思いから、同年10月にアマプロ株式会社を設立。仕事を通じて培ってきたコミュニケーション力や編集力を生かして、企業の情報発信をサポートするために奔走している。
企業の経営層とのインタビューを数多くこなし、その数は100名以上に達する。その中からリーダーの行動変革に興味を持ち、アメリカでエグセクティブコーチングの第一人者で、GEやフォードなどの社長のコーチングを行ったマーシャル・ゴールドスミス氏にコーチングを学ぶ。現在は経営層のコーチングも行う。コミュニケーションのプロフェッショナルが集まった国際団体、IABC(International Association of Business Communicators) のジャパンチャプターの理事も務める。2012年4月からは慶応義塾大学メディアデザイン研究科でも学ぶ予定。著書『紅茶にあう美味しいイギリスのお菓子』(2000年、アスペクト)。2児の母。
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