事業を揺るがしかねない課題に全社で挑んだ老舗食品商社【前編】:チームワークが経営を変えた!(2/2 ページ)
大阪に本社を構え、豆類を中心に数千品目の食品原料を扱う創業80年のかね善は、組織や業務を根底から見直す必要があるほどの大きな課題に直面していた……。
一人の仕入れ担当者にすべてを依存
別の課題もある。かね善の仕入れ部にいる豆の担当者はA氏一人なのだ。全国の営業担当全員がA氏に「在庫はいくらあるか」「この値段で売っていいのか」といった豆に関する情報を問い合わせ、判断を仰いでいる。しかし、A氏も常に電話対応できるわけではない。仕入れに出ていたり、営業同行したりする。その間は、営業担当は豆を売れなかったり、判断を遅らせたりしてしまうのだ。これは会社にとって大きな機会損失だといえる。
「豆の市場価格は日々変化するものです。適切な価格で販売しないと損失が出ます。しかし、損失が出る価格であっても、これまでの関係性を考慮して、取引先によってはその価格で販売することもあるのです。そういった微妙な価格設定と在庫管理が市場商品には必要になります。戦略的に在庫を回転させることは、当社にとって成長どころか存亡にかかわる重要な活動なのです」(岡田氏)
では、豆の仕入れ担当者を増員すればいいのではないか。しかし、そう事が簡単にはいかない事情がある。豆の仕入れは市場の流れなどを読む“相場師”の力量が大きく影響する。相場師としてA氏は、約20年前からかね善の豆の仕入れに関する評価や判断を一手に引き受けてきた。A氏の仕事は、長年の経験を通じて培われた知識や、研ぎ澄まされたカンによって行われており、簡単に社員が受け継げるものではない。
さらに、A氏が下した売買の判断は、社内での信頼が厚く、重要な取引についてはA氏の確認が不可欠だ。さらに、A氏に対する信用は社外の取引先に対しても同じように重要だ。A氏だからということで取引に応じてくれる生産者や販売先も少なくないという。
こうした状況において、岡田氏が考える問題点は以下の3つに集約される。
−営業担当間で情報の共有ができておらず、チームとして機能していない
−豆類商品の仕入れと販売のタイミング、価格設定が、一人の熟練者に委ねられている
−在庫を戦略的に活用するという取り組みが全社的にできていない
岡田氏が指摘するように、重要な商談に関する判断がA氏に集中することは、迅速に意思決定する上でボトルネックになり、営業対応の遅れにつながりかねない。加えて、A氏の元へは現場の商談情報が集まる反面、営業所や担当者同士の情報共有は進まず、ノウハウの属人化がますます進む。
これらの問題をどのようにして解決するか。筆者はまず、仕入れ担当者と営業担当者とを含めた主要メンバーで、現在の仕事の流れを徹底的に可視化することを提案した。それを通じて、経営者が認識する3つの問題点を共有し、解決の糸口を現場の視点で見出そうとしたのである。
かくして第1回目のワークショップが開催された。そのワークショップがそろそろ終わりにさしかかろうとしたとき、A氏が発した一言が筆者を驚かせた。 (次回に続く)
著者プロフィール
北原康富(きたはら やすとみ)
サイボウズ株式会社 シニアフェロー
早稲田大学 招聘研究員・非常勤講師
東京理科大学 非常勤講師
博士(学術)
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