「世界標準」で戦う――コマツ:海外進出企業に学ぶこれからの戦い方(2/2 ページ)
連結売上高1兆9817億円(2012年3月期)の80%以上を海外売上が占めるコマツ。日本企業の中でもグローバル化の優等生と言われるこの企業は、どのようにして現在の企業体を作り、また進化させようとしているのだろうか?
方針が明確になっているか
一方、コマツはこのような施策をグローバルレベルで実現するために、自社流の取り組みも行っている。坂根会長が社長の時に取り組みを開始し、現在も続いている「ダントツ商品の開発」と「コマツウェイ」のグローバル展開である。「ダントツ商品」の開発に関して特筆すべき事は、その方針を明確にしている点である。エッジの効いた商品を開発することで他社との差異化を図るというのは多くの企業が考える事だが、その方針が明確になっていない企業も多い。
コマツは、2002年に赤字に陥るが、その際再生を図るために競争優位力を出す方向性を明確にした。その当時は、燃費向上なども含めた環境対応、安全、ITの活用の3本柱だったが、この方針は現在も生きている。ただ単に「尖れ」という方針を出すだけでなく、具体的にどの分野で「尖る」かを明確にして取り組んでいるところがコマツ経営陣のリーダーシップが優れているところだろう。
次に、コマツウェイであるが、これはグローバル化を推し進めるためにコマツのコアバリューを明文化したものである。コマツウェイは完成されたものではなく、進化していくものと定義されており、全社員共通のものとシニアマネジメント向けのもので構成されている。全社員共通のものは、先述したQC活動、1970年代のTQC活動を発展させてきたものと言える。
顧客志向で品質と信頼性を醸成するために、協力会社を含めたトータルバリューチェーンで現場主義を徹底させるものとなっている。また、シニアマネジメント向けのものは、マネジメントが現場主義を徹底するために、
・トップダウンで決まった事をマネジメントが理解し、自分の言葉で現場とコミュニケーションをとりながら実践する
・現場で起こっている事をマネジメントが現場に入り込むことで吸い上げ、改善を図ると同時に全社に展開する
ものとなっている。
これは、トップダウンとミドルアップアンドダウンを組み合わせたもので、全社員共通のコマツウェイを仕組として機能させようとするものである。コマツは、グローバルの研修でこのコマツウェイの徹底を図り、本当のグローバル企業へ進化しようと試みている。
これまで見たコマツの取り組みの根本には、常にキャタピラーとのグローバルレベルでの競争があると思われる。坂根会長が2000年代前半に行った早期退職などの痛みを伴うコスト構造改革も、当時キャタピラーとの営業利益率の差が6%もあった事を意識して断行している。コマツにとっては、キャタピラーとの差異化を考える事は、1960年代からある意味必然だったのかもしれない。ただし、このベンチマークがコマツのグローバル化の取り組みの方向性を具体化する上で大いに役立ったと思われる。
日本市場での今後の成長性が不透明なため海外に進出する企業も多いと思われる。その戦略を立案する際には、市場ニーズに応える事を軸に考えるのは当然必要だが、短期的・長期的にどの企業と戦うことになるのか、その企業を徹底的にベンチマークして、そこを上回るためにどのような取り組みをすべきかを考えることも非常に重要なのではないかと思う。その意味では、コマツのこれまでの取り組み、これからの取り組みは多くの企業にとって大変参考になるだろう。
著者プロフィール
井上 浩二(いのうえ こうじ)
株式会社シンスターCEO。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、1994年にケーティーコンサルティング設立。アンダーセンコンサルティングでは、米国にてスーパーリージョナルバンクのグローバルプロジェクトに参画後、国内にてサービス/金融/通信/製造等幅広い業種で戦略立案/業務改善プロジェクトに参画。ケーティーコンサルティング設立後は、流通・小売、サービス、製造、通信、官公庁など様々な業界でコンサルティングに従事。コンサルタントとしての戦略立案、BPRなどの実務と平行し、某店頭公開会社の外部監査役、MBAスクール、企業研修での講師も務める。
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