部下がノートを取らないんです:田中淳子のあっぱれ上司!(3/3 ページ)
「せっかく教えているのに、ノートを取らない」「メモするのはいいけれど、すぐどこかに無くしてしまう」――こんな部下、あなたの周りにもいませんか?
ポイントを整理しよう。マネジャー氏が新入社員にノートを取らせるときに実行したのは、下記の3つだ。
- ノートを1冊に決めて固定化する
- 内容で分類せず、発生順に記録する
- Q&A形式で記述する
このノートは活用方法も面白い。
疑問がわいて新入社員がマネジャーに訊きに来たとする。「それ、たしか●●の案件の打ち合わせで一度説明した気がするなあ」と言うと、新入社員は自分のノートを最初から見ていき、該当箇所を見つける。ノートを読んで解決すれば自力で取り組ませるし、読んでも解決しなければ、あらためて教える。
その際、新入社員に1つ指示をする。以前習ったものを再度質問したときは、ノートの該当箇所の脇に「正」の1本を足すということだ。
しばらくは「教えたはずだけど」「説明した気がする」とマネジャーに言われて新入社員が調べることが続いたが、ほどなく、疑問点についてまずは自分のノートをめくって調べるという姿勢が身についたそうだ。
こうなるとマネジャーが割く時間は減るし、新入社員も以前習ったことを比較的早く見付けられるようになる。
「正」を書かせるのは「3つ以上ついたらもう教えない」という合図なのかと思い、尋ねてみると、そうではないと言う。
「新入社員に分からないことはたくさんあるだろうし、1回聞いても理解できなくて、2回3回と同じようなことを質問するのは仕方ないと思うんです。だから、同じ項目に『正』がたくさんついているからといって私がもう教えない、ということはありません。何度でも教えます。もちろん、マスターしなさいとは言うけれど」
「ただ、正の線が3本以上ついている項目は、苦手だったり忘れやすかったり、しょっちゅう遭遇する項目だから、3本以上ついている項目だけを拾って、週末に見直すといい、とは言っています。週末に自分の不得手な部分を読み返すだけでも、かなり成長スピードが増すように感じます」
ちょっとした工夫で若手は育つ。マネジャー氏は、新入社員への指導方法を試行錯誤してこのやり方に到達したそうだ。これは新入社員の育成例なので、もう少し経験のある若手にはここまで丁寧かつ細かく指導しなくてもよいだろう。しかし、ノートの取り方に課題があってそれで成長スピードが鈍化していると思われる若手がいるのなら、マネジャー側もノートの取り方そのものについてアドバイスしてみてはいかがだろう?
著者プロフィール:田中淳子
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
著書「速効!SEのためのコミュニケーション実践塾」(日経BP社)、「はじめての後輩指導」(日本経団連出版)、「コミュニケーションのびっくり箱」(日経BPストア)など。ブログ:「田中淳子の“大人の学び”支援隊!」
Facebook/Twitterともに、TanakaLaJunko
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