「出現する未来」を実現する7つのステップ ――「ダウンローディング」(後編):U理論が導くイノベーションへの道(2/2 ページ)
思い込みや、過去の経験をいったん横において、評価、判断、結論や決めつけをいったん保留し、着地できない居心地の悪さに身を置き続けてみてほしい。
ダウンローディングからの移行の鍵「保留」
ダウンローディングの呪縛から逃れ、やせて枯れた土壌を耕し、次のプロセスである「観る」に移行するための鍵は、一体何なのでしょうか? U理論の中では、それを「保留」という手段で紹介しています。
英表記では「保留」という言葉は、Suspendingと表現されているのですが、動詞のSuspendには保留するという意味の他に何かを宙吊りにするという意味もあり、これが「保留」の状態を非常によく表しています。
皆さまもサスペンスドラマやサスペンス映画をご覧になったことがあるかと思います。サスペンスという言葉は、このSuspendと同じ語源にあたると言われています。本当に面白いサスペンスドラマはどんどん展開が変わり犯人が誰か分からず、着地できずに宙吊りになって、目の前の状況に釘づけになったままの感覚が続いているあ、あの感覚が「保留」です。
こうしたサスペンスドラマを見ている時は、予測不可能なシナリオの展開によって受動的に宙吊り状態にさせられるわけですが、U理論では能動的に「保留」することを推奨しています。
先ほどの宇宙人のメールの例で言うと、「宇宙人とカラオケに行くなんてありえない!」「どうせ、何か裏があるんだろう」という頭の中に浮かんでくる評価や判断の声に気付き「宇宙人とカラオケに行くなんてありえない! と思っているな〜」「どうせ、何か裏があるんだろうと思っているな〜」といったん、自分の中で巡っている思いを全て横に置いて読んでいくということになります。
言い換えれば、「評価・判断、結論や決めつけをいったん保留し、着地できない居心地の悪さに身を置き続ける」ということです。
「保留」をより効果的に行うためには、先述したダウンローディングの例を元に、自分がダウンローディングな状態になっていることにひたすら気付き、自分の枠組みをほどよく覆す情報が手に入るまで、結論は一切出さず、出したとしても暫定的な結論にとどめ、居心地の悪さを味わい続けるということです。
自分の枠組みを覆すような新鮮な驚きもなく、結論を出せない居心地の悪さもないのだとしたら、自分はダウンローディングに陥っていると思って間違いないでしょう。
「保留」のトレーニング方法
近代進化論の父であるチャールズ・ダーウィンは、いつもノートを持ち歩き、自分の理論や予測とは反する観察やデータを記録していたそうです。今回はこの方法を応用した、日々の生活の中でできる「保留」のトレーニングを紹介します。
1、日常生活の中で頻繁に接する人の中で苦手な人を一人挙げてください。苦手な人がいないという方は、少し気を使うという程度でも結構です。
2、自分が相手に結論付けている主張や考えをできる限り挙げてください。
例:「○○さんは、人の話を聞かない」「○○さんは、論理的思考能力が弱い」「○○さんは、何でも人のせいにする」など
3、1週間程度、その人に対しての考えや思いが出てきたら、それをそのままノートに記録してください。その人に対する結論めいた考えや、判決を下すような思いが巡ったとしたら、「そうかもしれないし、そうでないのかもしれない」と念仏のように頭の中で唱えて、居心地の悪い状態に身を置き続けてください。自分がダウンローディングに陥っている状態により気付きやすくするために、その相手と一緒に時間を過ごしてみるのもよいでしょう。
このトレーニングのポイントは、結論を出さず、居心地の悪さにとどまり続け、自分がダウンローディングになっていることに気付くことにあります。従って、相手のことを好きになる必要はありませんし、2人の中で生じている問題を解決しようとする必要もありません。あくまで、「保留」する筋力をつけるためのトレーニングとなります。
もし、相手に対する自分の枠組みをほどよく覆すような、相手の「意外な一面」に触れることができた場合には、その時に自分の内側で起きた変化に気付いてみてください。
次回は、次のステップであるこの「観る(Seeing)」についてご紹介します。
著者プロフィール
中土井 僚
オーセンティックワークス株式会社 代表取締役。
社団法人プレゼンシングインスティテュートコミュニティジャパン理事。書籍「U理論」の翻訳者であり、日本での第一人者でもある。「関係性から未来は生まれる」をテーマに、関係性危機を機会として集団内省を促し、組織の進化と事業転換を支援する事業を行っている。アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア株式会社)他2社を通じてビジネスプロセスリエンジニアリング、組織変革、人材開発領域におけるコンサルティング事業に携わり2005年に独立。約10年に渡り3000時間以上のパーソナル・ライフ・コーチ、ワークショップリーダーとしての活動を行うとともに、一部上場企業を中心にU理論をベースにしたエグゼクティブ・コーチング、組織変革実績を持つ。
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