寄ってたかって育てちゃえ:田中淳子のあっぱれ上司!(3/3 ページ)
新人一人に対して一人の担当者をつける「制度化されたOJT」は、立ち上がりが早くなったりきめ細やかなケアができたりとメリットが多い。しかしそれに頼りきると、意外な副作用もあるという。
3つのポイント
大勢で寄ってたかって成長支援するために、いくつかすべきことがある。
1つ目は、上司からメッセージを発信することだ。「若手の育成は、OJT担当者一人の仕事にしないこと。自分たちの職場に配属された若手なのだ。自分たちの後輩という意識を持って、誰もが育成に携わること!」というメッセージを上司に出してもらう。これは非常に有効である。
次は、OJT担当者が積極的にOJTの状況を周囲に知らしめることである。「先月はこんな体験をさせました。先週はこういうものを作らせました」「来週はこういう場所に同行させる予定です。来月はこんな計画があります」といった来し方行く末を周囲に定期的に報告するのである。
まめに報告を聞いている先輩たちは、知らず知らずのうちに育成状況に興味や関心を持つようになり、いざ「この部分を助けてほしい」とOJT担当者に依頼されたときに携わりやすくなる。子育てと同じで、ある日急に「1歳の孫の子育てを手伝ってくれ」と言われても祖父母は困惑するが、常日ごろから成長過程を知らされていれば、支援に携わりやすくなるであろう。
3つめのポイントは、具体的な仕事を依頼することである。「若手のOJTを手伝ってください。なんでもいいので助けてほしい」と頼まれるよりも、「○○を教えてやってくれませんか?」と具体的な事柄を指示された方が周りも育成に関わりやすい。これまた子育てと同じなのであるが、「なんでもいいから手伝って」と言われるより、「オムツを替えてください」と言われる方が周囲は関わりやすい。
3点を実践するだけでも、かなり周囲を巻き込める。大勢が育成に関わることは、若手の成長スピードを加速するだけでなく、OJT担当者の負荷もかなり軽減する。OJT担当者や部下育成に責任がある上司は、大勢が育成に関わることになるよう、まずはこの3点を実践してみてはいかがだろうか。
著者プロフィール:田中淳子
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
著書「速効!SEのためのコミュニケーション実践塾」(日経BP社)、「はじめての後輩指導」(日本経団連出版)、「コミュニケーションのびっくり箱」(日経BPストア)など。ブログ:「田中淳子の“大人の学び”支援隊!」
Facebook/Twitterともに、TanakaLaJunko
悩める上司と部下の付き合い方を、企業の人材育成に携わって27年(!)の田中淳子さんが優しくにこやかに指南する「田中淳子のあっぱれ上司!」のバックナンバーはこちら。
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