考えるべきは得意なものは何かではなく、お客さまが高く評価するものは何か:ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(2/2 ページ)
自社製品と競合製品を比べた場合、自社製品が選ばれるのは価格や機能が主ではない。いかに顧客の価値を向上させることができるかが重要なポイントになる。
現状維持は破滅
多くの企業は価格勝負をしたいわけではなく、顧客の価値を真摯に考え一生懸命に仕事をしている。それでも価格勝負になってしまうのはなぜなのか。
「明治維新で富国強兵を掲げ、40年後にバルチック艦隊を撃破した成功体験に引きずられたことが、さらに40年後の太平洋戦争の敗戦に至った原因だった。太平洋戦争で、大艦巨砲主義の日本が空母による機動部隊の米国に破れたように、真空管ラジオがトランジスターラジオに、電話が電子メールに、家庭用ゲーム機がネットワークゲームになど、過度に得意技にこだわりすぎたために覇者を譲った例は多い。新たな覇者は、常に新たな顧客や新たな市場を開拓し、成長している」(永井氏)。
これがハーバード・ビジネス・スクール教授のクレイトン・クリステンセンが唱えたイノベーションのジレンマである。イノベーションのジレンマは、リーダー企業が既存顧客の要求を満たすべく真摯に既存製品の持続的イノベーションに投資し続けることで、新興企業が新規市場を開拓しながら推進する破壊的イノベーションに対応できず、結果的にリーダーの座を追われる、というもの。過去の常識にこだわるリーダー企業が、過度に得意技にこだわり続けると、結果的に価格勝負をしなければならなくなってしまうのだ。
例えば、ものづくりにおいて、顧客の要望にあわせて個別にきめ細かくカスタマイズすることや、違法コピーと闘いながら著作権で稼ぐという、これまでのビジネスモデルは破壊されつつある。インターネットの登場により、情報伝達コストが限りなくゼロに近づき、世界全体で最適化が可能になったことが要因である。
例えば、ものづくりにおける多国籍化時代の製品戦略では、家電や車のように、徹底した現地化やきめ細かなカスタマイズ、各国個別仕様によりものづくりを推進してきた。一方、グローバル化時代の製品戦略は、Amazon KindleやAppleのような世界統一プラットフォームを提供し、その上で利用できる製品やサービスを提供することが重要になる。
またクリスアンダーソンの著作「フリー」では、プリンスが2007年に発表したアルバム「プラネット・アース」を英国のデイリーメイル紙の日曜版280万部に景品として添付した事例が紹介されている。これにより、プリンスは、著作権収入と引き替えに、新聞社からの収入とコンサート収入で1880万ドルを得たことが紹介されている。
さらに三井物産の飯島彰己社長は、2012年年頭の辞で「従来のやり方の延長に進化・発展はない。既成概念にとらわれることなく、創造的に現状を否定し、そしてアンテナを高くして、変化の予兆を 鋭敏に感じ、それを先取りしていかなければならない。時代の変化とともに、新たなニーズ、未充足のニーズが現場にはまだまだあるはずだ」と述べていることが紹介された。
永井氏は「考えるべきことは、われわれが得意なものは何かではなく、お客さまに高く評価していただけるものは何かである。得意なものは過去の栄光に過ぎず、いま解決できていない課題は何か、今後課題を解決するためには何をすべきかが重要になる」と話し、講演を終えた。
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