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記録により何を残すか――「継続するということ」を東大寺1300年の歴史に学ぶITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(2/2 ページ)

企業の寿命は30年といわれているが、昨今では10年説も出てきている。継続することは多くの困難を伴うが不可能ではない。東大寺は、大きな危機、困難を経験しながらも乗り越え現在まで続いている。そこに秘伝はあるのか。

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2013年に1262回目を数える「修二会」

 東大寺二月堂では、旧暦2月に「修二会(しゅにえ)」と呼ばれる法会が行われている。現在は、毎年3月1日より2週間にわたって行われるが、もとは旧暦の2月1日から行われていたために、二月に修する法会を意味する修二会と呼ばれている。二月堂という名前もこの法会に由来している。

 修二会では3月13日の午前1時半ごろ、若狭井(わかさい)という井戸から観音さまにお供えするお香水(おこうずい)を汲み上げる「お水取り」という儀式が行われるほか、この行を勤める練行衆(れんぎょうしゅう)の道明かりとして「お松明(たいまつ)」に火がともされる。このため修二会は、お水取り、お松明とも呼ばれている。

 「修二会は大仏開眼と同じ752年に創始された法会で、ご本尊である十一面観音に対して悔過(けか)をする法要である。すべての衆生が犯したさまざまな過ちを僧侶が懺悔するもの。2月20日からの別火と呼ばれる準備期間を経て、3月1日からの本行、3月15日の満行まで、天下太平、国家安泰、風雨順時、五穀豊穣などを祈願する」(森本氏)

「継続するということ」は将来への約束

 修二会では、行事が滞りなく進むように日本全国1万3700余の神様の名前が記された「神名帳」を読み上げる。これにより日本全国の神々に集まってもらい法要を守ってもらっている。また東大寺の「過去帳」には、創立以来、聖武天皇をはじめとする東大寺に関わってきた人たちの名前が記され、毎年読み上げることでその功績を顕彰している。

 さらに歴史の記録として293冊と2107通からなる「二月堂修二会記録文書」が残されており、現在、重要文化財にも指定されている。例えば「二月堂練行衆修中日記」には、これまでに厳修された修二会のすべてが記録されている。東大寺では修二会は「不退の行法」とも称せられ、火災にあったときにも仮堂で続けられてきた。

 修二会では、牛玉札(ごおうふだ)を刷るための「牛玉刷り」が行われるが、これに関する「牛玉誓紙」と呼ばれる記録も残されている。牛玉誓紙は、牛玉札が正しく刷られていることを証明するもので、参籠した僧侶の名前が戦国時代から順に全て記名されている。

 「父の名前もあり、私の名前も記されている。名前を書いたのは20年前だが、その日のことは鮮明に覚えている。記録に名前を残すということは、現在の修二会に責任を負うだけでなく、将来の責任も負うということ。“継続するということ”は、そういうことだと思う」(森本氏)

 仏教でつながりを「縁」というが、何人もつながりの中で生かされている。この縁を大切にすることが仏教の根本的な教え。年月、刹那、劫という時間軸の中で、いかに空間的につながり、目的を設定して、何を記録として残すか。企業経営においても、いまの記録だけではなく、後につながる意志決定であることが重要になる。


東大寺大仏殿

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