「出現する未来」を実現する7つのステップ――プロトタイピング:Prototyping:U理論が導くイノベーションへの道(2/2 ページ)
「ありそうでなかった」ことを生み出すためには、試行錯誤しながらアウトプットを生み出していくプロセスが重要である。
以下の写真は、オットー博士がファシリテートした2日間のグローバルフォーラムのプロトタイピングの時間に作成されたものです。
初日から2日目の午前中にわたってUの谷を潜り、結晶化のプロセスを経たのち、午後から「この指とまれ」形式でプロジェクトを立ち上げ、関心のある人たち同士でグループを編成します。新しいグループメンバーで少し対話をしたのち、すぐに紙を切り貼りしながら、そのプロジェクトから生み出したいイメージを作り上げていきます。この写真のような作品を作ったのち、グループ間で相互にフィードバックしあい、それを頼りに各グループで行動計画を作り、フォーラムは終了しました。
デザインファームIDEO社のプロトタイピング事例
プロトタイピングの具体的な実践手法としては、プロダクトデザイン専門会社であるIDEO社が実際に行っている方法を取り入れています。
オットー博士によるU理論の講座の中では、プロトタイピングの事例としてIDEO社の取り組みの様子が収められているABCニュースの映像が紹介されました。(YouTubeで「IDEO Shopping Cart」と検索すると見られます。)
この動画では5日間で新しいショッピングカートを創るというお題が与えられ、スタンフォードのエンジニア、ハーバードMBAの学生、言語学者、マーケティングエキスパート、心理学者、生物学専攻といった専門性を持った多様なメンバーが、現地観察をしたり、ブレーンストーミングをしたりしながら、アイデアを練り上げ、ショッピングカートのプロトタイプを創り上げていく様子が紹介されています。この動画を見るとと「プロトタイプの狙いは学習の最大化にある」という意味を感じ取ってもらえるのではないかと思います。
「宇宙(ユニバース)との対話」というパラダイムシフト
先ほど紹介した3つの独自性のうち、もっとも理解が困難なのは「宇宙(ユニバース)との対話の中から紡ぎだす」ことではないでしょうか? U理論の中では、「ファスト・カンパニー」誌の共同創設者であるアラン・ウェバーの言葉が引用されています。
「宇宙は実は、面倒見のいい場所なんだ。自分のアイデアに対して心を開いていれば、宇宙は助けてくれる。宇宙はアイデアを改善する方法を教えたがっている。だが、その提案の中にはひどいものもある。宇宙のアイデアや教えに耳を傾け、役に立つものと害になるものを見分けるのも冒険の一部だ。心を閉ざして“このアイデアは十分に練り上げられている。思ったようにできないならこの仕事をそもそもやるつもりはない”とは言わない方がいい。ただし他人の意見をいちいちすべて聞いていたら気が狂ってしまう」
この言葉は、偶然の出会いから生じるひらめきや偶然とは思えないほどのチャンスに出くわすための大切なスタンスを表現しています。われわれ日本人は一般的にはこういったスタンスを「アンテナを張り巡らせる」という表現を使いますが、「宇宙(ユニバース)との対話」という言葉でオットー博士が表現しようとしていることは、それをさらに進化させ、身の回りで起きるあらゆる事象とダンスするかのように偶然性の中に身を置き、そのプロセスそのものを楽しむことなのではないかと思います。
過去の集積である自分の頭の中にはないアイデアやインスピレーションに形を与えていくからこそ、「ありそうでなかった」イノベーションがある。それは、イノベーションのヒントであるのとともに、人生をより豊かに生きていくための秘訣ではないかと思います。
次回は、いよいよ最終回「実践(Performing)」を紹介します。
著者プロフィール
中土井 僚
オーセンティックワークス株式会社 代表取締役。
社団法人プレゼンシングインスティテュートコミュニティジャパン理事。書籍「U理論」の翻訳者であり、日本での第一人者でもある。「関係性から未来は生まれる」をテーマに、関係性危機を機会として集団内省を促し、組織の進化と事業転換を支援する事業を行っている。アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア株式会社)他2社を通じてビジネスプロセスリエンジニアリング、組織変革、人材開発領域におけるコンサルティング事業に携わり2005年に独立。約10年に渡り3000時間以上のパーソナル・ライフ・コーチ、ワークショップリーダーとしての活動を行うと共に、一部上場企業を中心にU理論をベースにしたエグゼクティブ・コーチング、組織変革実績を持つ。
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