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ミャンマー市場の開拓飛躍(3/3 ページ)

未開拓の豊富な天然資源、若年層が多くを占める6千万人超の人口、中国・インドの中間に位置しASEAN第2の国土を誇る、ミャンマー。急速な民主化を受け世界から熱い視線を集めているが、日本勢にとって「最後のフロンティア」になりうるのか。

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3、「業種により異なる事業性」

 では、結局のところ、日本勢にとってミャンマーとは「最後のフロンティア」と謳うには、魅力に乏しいマーケットだろうか。 現状に鑑みれば、早くから投資をかけ圧倒的な地位を作り上げることのできた他のASEAN諸国に比して、難しいマーケットであることは否めない。加えて、一般の消費者が購買する消費財の市場性で見た場合に、それが一定のレベルになるのは遥かに先のことになることは間違いない。確かに、世界から注目を集めるマーケットだが、一人当たりGDPではASEANで下から2番目。人口は6千万人弱で、インドネシアの4分の1以下、タイよりやや多いという数字である。他のASEAN各国に比して、短中期で魅力度が高いと言えば嘘になる。

 一方で、インフラ関連の事業など、国家レベルで行われる事業領域について言えば、外資を活用しながら、これまで投資不足だった領域に、一気に投資をかけてキャッチアップを図ることが政府の方針であり、規模の面から見ても、やはり魅力的と言えるだろう。豊富な資源、低廉な労働力、地政学的な優位性を背景に国として今後の成長は確実視されていること、国家として反日でも抗日でも無く、親日であることを考慮すれば、少なくとも中長期に見て、投資を検討するだけの価値があることはやはり間違いない。消費財に近い領域でも、まずは中長期のビジネスを育てる種まきと割り切って考えれば、十分に検討に値するマーケットだろう。実際、Coca ColaやP&Gなど、世界の名だたる消費財ブランドは既にこのマーケットへの浸透を図っている。

「国としての構造的問題に対する理解に根ざした働きかけ」

 では、今後ミャンマーを攻略するには何が必要とされるのか。特にインフラを中心とした国家レベルのプロジェクトについて考える場合、上述した「Best-in-Class」と「Owe to too many countries(あまりにも多くの国に貸しを作っている)」という2 つのポイントに加えて、「国としてのCapability不足」、「民衆・ローカルからの要求」の2つを合わせた、4つのポイントを考慮する必要があると考える。

 前述の2つから得られる示唆は、「best-in-class」の提案でなければならないこと。また、丸紅-Orange の様な多国籍の連合グループによる提案は1つの案件で2つの「貸し」に対して効果が期待できるという点において優位性がある、ということである。更に、「国としてのCapability不足」とは、30年以上も外界と隔絶され、加えて高等教育が政府により制限された為に、所謂知識層の数が極端に少ない、ということである。そうした状況下での国の解放に伴い、ありとあらゆる重要案件が同時に進行することになったミャンマー政府は圧倒的なリソース不足に陥っている。仮に前の会議で約束したことが期日までに進んでいなかったとしても、それは「やらなかった」のではなく、リソース不足で「やれなかった」可能性が高い。従い、政府の重要プロジェクトを担う・進める際には、ミャンマーにかけている専門性・リソースを補完する必要がある。

 最後に「民衆・ローカルからの要求」だが、2015年に総選挙を控えるミャンマーは、国民に対して目に見える成果を示す必要に迫られている。その意味で、携帯電話の普及も「実感できる豊かさ」の1つとして極めて重要な指標である。そうした中で外国企業の考えるべきことは、国内へどのように富を還元するか、という点である。その意味で、雇用の創出やローカル企業への一部事業の委託など、ミャンマーの国と共に利益を創出する、という姿勢が求められる。

 上記で述べた内容は、日本視点を捨てて、ミャンマーを取り巻く環境を客観的に見た際の筆者の意見だが、現状を説明する1つの有力な考え方と言えるだろう。ミャンマーが世界でも類を見ない競争の激しい国だということを踏まえつつも、日本の強みを十分に活かして、今後日本企業がミャンマーと共に発展していくことを期待したい。

著者プロフィール

池田 晋吾(Shingo Ikeda)

ローランド・ベルガー シンガポールジャパンデスク プリンシパル

早稲田大学大学院理工学研究科修士課程を修了後、ローランド・ベルガーに参画。現在シンガポールオフィスに在籍。建設・電機・自動車・食品などを中心に幅広い業界において成長戦略、ターンアラウンド戦略、営業戦略等の立案・実行支援を手がける。近年は、著しい経済成長を遂げるアジアにおいて、日本企業の成長戦略・営業戦略の立案及び現地での実行まで支援するプロジェクトを多く手がけている。


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