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仕事は、与えられた役割を演じるロールプレイ――たかが仕事で、その人の人格が傷つく必要はない気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(2/2 ページ)

仕事がうまくいず怒られたとしても、個人の人間性に対してではなく与えられた役割に対して怒られたととらえれば、全力で役割を演じることを楽しみ、誠実に仕事に取り組める。

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役割を演じるロールプレイととらえて仕事をすると、嘘をつく必要がない

中土井:最初の受注で、いきなり慢心をくじかれる経験をしているからこそ、今のスタンスにつながっているのですね。「誠実に仕事をする」ということを大事にされていますが、米田さんの仕事観を聞かせていただけますか?


米田氏(左)と聞き手の中土井氏(右)

米田:仕事はロールプレイだといつもみんなに話しています。それぞれに与えられた役割を演じて仕事をするのです。例えば、課長のロールを与えられたとしたら、他のメンバーに背中を見せて仕事をするという役割です。この役割に集中することがロールプレイです。

 仕事はロールプレイだととらえると、本当の自分を仕事で出す必要はありません。職場で本当の自分で闘って、傷ついてしまう人がたくさんいると思います。仕事でその人個人が傷つく必要なんてありません。仕事がうまくいかなくて、怒られたとしても、その人個人の人間性に対してではなく、与えられた役割に対して怒られたととらえることができたら、仕事がしやすいと思いませんか? 役割を全うすることを目指してロールプレイで仕事をしていれば、嘘をつく必要もありません。全力で役割を演じることを楽しめばいいんです。それが、仕事を誠実にすることにつながります。

 人間は完璧じゃないし、完璧である必要もないと思います。ちゃんとしていない自分がいてもいいのです。でも、仕事である以上、誠実に仕事に向き合わなければいけない。ちゃんとしていない自分がいることを認めているからこそ、仕事の場面ではちゃんとするために、仕事をロールプレイだととらえています。

仕事が終わってみんなで飲みに行くことがあります。そういうオフのときは、ロールから降りているときですので、厳しく言いすぎた日などは、「あれは言いすぎですよ」などと社員から注意されたりもします。仕事をロールプレイととらえているからこそ、オンとオフの線引きがはっきりします。

 仕事は人生の中である一定の時間を過ごすので、人生を構成する重要な要素ではありますが、一部分に過ぎません。仕事の他にも、家族、友達、趣味、おいしい食事、面白い本や映画があって、その人の人生は形成されるものです。弊社では、「目標を達成する会社ではなく、約束を守る会社でありたい」という考えのもと、社員が「エンゲージメント(約束)」を設定しています。このエンゲージメントを設定するときにもこの考え方が反映されています。売上計画1億円を達成する、システム開発をする、エクセルを覚えるといったことと、映画を見に行くというエンゲージメントが同じ評価軸で並んでいたりします。売上計画を達成したとしても、エンゲージメントとして掲げていたのに映画を見に行かなかったら、評価が下がることもあります。

これまでに関わったすべての仲間が今の成長をつくり上げてくれた

中土井:仕事はロールプレイと言うと、ドライなイメージもありますが、米田さんの話を聞いていると、そういうわけでもないですね。ちゃんと人間臭い部分も認めてあげた上で、仕事はロールプレイだと言っている感じを受けました。

米田:採用の段階では、ロールに人を当てはめるのではなく、この人にはどんなロールが合うかというイメージで採用しています。まず、人とのつながりありきなのです。この会社を選んでくれて出会えた人たちなので、仲間という意識は強いです。採用を通じた人との出会いを大切に考えているので、正社員はもちろん、アルバイトの方の最終面接も全て社長である私が行っています。日本全国どこで面接があるとしても、直接会いに行きます。先日は仙台へアルバイトの方の最終面接に行ってきました。ここに来てくれてありがとうと伝える意味合いも強いです。

 組み織りなすと書いて「組織」と書くように、組織には横の糸と縦の糸があります。組織における横の糸は、今のお客さま、仲間、目の前の仕事、縦の糸は会社が歩んできた歴史です。今の好業績は、過去に頑張ってきたからこそ成り立っているもの。今頑張っていることは未来につながります。このような縦の糸と横の糸が折り重なって、組織となるのだと考えています。

 弊社では創業以来、1日でも在籍していた人の名前を全て入れたポスターを作っています。誰かが取った1本の電話が今の仕事につながっているのだという気持ちを持つようにしています。人とのつながりは組織において最も大切にしなければならないことですから。

対談を終えて

 「仕事は単なるロールプレイだから、本当の自分を出す必要がない」という言葉だけを聞くと、まるで自分に嘘をつきながら仕事をするかのように聞こえます。しかし、米田社長のいう「本当の自分」とは、「完璧になんてなりようのない人間という生き物である自分」のことを指しています。仕事ができないからといって、あくまでそれはロールだから、「不完全でしかない自分」が否定されているわけではない、というメッセージを伝えています。

 そして、「不完全でしかない自分」だからこそ、「ロールとしての自分」があることによって、誠意を持って仕事にチャレンジし続けることができます。こういった米田社長の仕事観が、社員に対する深い愛情と、仕事に妥協しないプロフェッショナル意識の高さの両立を可能にしているように思います。会社の急成長を支える米田社長の哲学を垣間見ることができた気がしました。

プロフィール

中土井 僚

オーセンティックワークス株式会社 代表取締役。

社団法人プレゼンシングインスティテュートコミュニティジャパン理事。書籍「U理論」の翻訳者であり、日本での第一人者でもある。「関係性から未来は生まれる」をテーマに、関係性危機を機会として集団内省を促し、組織の進化と事業転換を支援する事業を行っている。アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア株式会社)他2社を通じてビジネスプロセスリエンジニアリング、組織変革、人材開発領域におけるコンサルティング事業に携わり2005年に独立。約10年に渡り3000時間以上のパーソナル・ライフ・コーチ、ワークショップリーダーとしての活動を行うと共に、一部上場企業を中心にU理論をベースにしたエグゼクティブ・コーチング、組織変革実績を持つ。


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