イノベーションを起こす組織のつくり方:日本式イノベーションの起こし方(2/2 ページ)
先ず組織が行うべきは、プロセスをつくること。既存事業とは異なる意志決定基準に則って、今までにない決断をするためである。プロセス運用のポイントとは?
資源を確保する
イノベーションを形づくるには、資源(経営資源)が必要です。アントレプレナーとイントレプレナー。組織でイノベーションを生むのはイントレプレナーであり、アントレプレナーは個人が自ら起業します。二者の最大の違いは、組織の経営資源を活用できるかどうかです。
組織の中では、多種、多様、大量の資源が存在します。これらを活用できるようにするのが組織側の役割になります。先ず、資源としての人について考えてみましょう。イノベーションをなしえるにはさまざまな人が必要です。思いつく人、発想を磨く人、磨いた発想を顧客や市場や関係者と対話する人、発想を計画にする人、協力者を巻き込む人・・・。一部の機能はマネジャーが果たしていきます。これらの人を組織側は確保しなければいけません。
必要不可欠なものとして、カネも挙げられます。カネは多すぎて困るということはありませんが、際限なくあるものではありません。ある会社は、新しい価値の創出に必要なカネを営業利益の何パーセントと決めて、新規事業を起こすために必要な資金は既存事業が自ら確保せよ、と叱咤激励しています。極めて透明性の高いカネの流れが、組織側の体制により担保されているのです。
技術も資源といえます。現在、企業一社で市場に対応できる技術は、急速に限定的になっています。そこは、オープン・イノベーションの出番です。社内のニーズと社外の技術がつながります。組織内外の知がつながり、組み換えされ、新しい知が創出されます。資源としての技術を、自社内で閉じるのではなく、外に求めることで、組織内のイノベーションが加速するのです。
そして、イノベーションにはタイミング(機会)が重要です。素晴らしいアイデアも、それを受け入れる時代的背景や社会的土壌、言い換えると機会が必要なのです。機会も資源といっていいでしょう。イノベーションを推進するために使える資源は全て使い倒させることが、組織側には求められます。
認知と称賛を繰り返す
プロセスをつくり、資源を投入した上で、組織側が行うべき大切なことがあります。認知と称賛を繰り返すことです。人間誰しも褒められると嬉しいものです。
イノベーションを起こした人、起こしそうな人を、ありとあらゆる機会を通じて徹底的に褒めちぎってください。当事者は当然嬉しいですが、その認知や称賛を聞いていた社員、従業員にも変化が起きます。「ああ、こういうことが求められているんだ」という空気が醸成されていきます。イノベーションの中身のみならず、イノベーターとしての共感できるキャリアや動機、問題意識・生き様などに焦点をあてて褒めるべきです。このような称賛が浸透していくと、イノベーションを起こす組織文化が徐々に形成されていきます。
そして、意図的に褒め言葉を変えることも必要です。皆さんの会社で、褒め言葉はどのようなものがあるでしょうか。「ちゃんとやっているね」「最近、頑張っているようだね」といった褒め言葉はよく聞きます。
既存事業の領域ではそれでもいいでしょう。しかし、新しい価値の創造を促すイノベーション領域ではどうでしょうか? 今までにないことにチャレンジすることが求められる領域で、行動に対するフィードバックがないと、人は不安になってしまいます。イノベーション領域での認知・称賛を増やしていくことが大切です。
「それは今までに誰もやったことがない」「世の中を変える可能性がある」「まさに変化を創り出している」正面きってこのような言葉を使うのは恥ずかしいかもしれませんが、そこは割り切って伝えるべきです。共感はイノベーションを育む推進力になります。
褒め言葉を意図的に変えて、イノベーションを起こすコミュニケーションの基盤をつくるのです。それは組織の責任でもあります。
著者プロフィール:井上 功(こう)
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ エグゼクティブプランナー
1986年リクルート入社、企業の採用支援、組織活性化業務に従事。2001年、HCソリューショングループの立ち上げを実施。以来11年間、リクルートで人と組織の領域のコンサルティングに携わる。2012年より現職。イノベーション支援領域では、イノベーション人材の可視化、人材開発、組織開発、経営指標づくり、組織文化の可視化などに取り組む。
著書:「リクルートの現場力」、「なぜエリート社員がリーダーになると、イノベーションは失敗するのか」(ダイヤモンド社)
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